【中身が好きなので外見は関係なかったりする前編】



 世の中何がどうしてそうなったのか、いわゆる5W1Hが成り立たない事って結構あると思う。
 それほど焦っていれば仕方ないし、現実逃避したくなるほど状況を判断出来ない事がある。

 その日はいつも通りの朝だった。いや、厳密には彼女が起きるまでいつも通りの朝だった。
「おはようございます。それじゃ今日のミーティングを始めるぞ」
 この寮のメンバーは基本的に朝はタルタロス攻略など、何かしろ連絡事項がある可能性が高いので、朝練等でいない場合を除いては全員揃って朝食をとっている。
「今日のタルタロスは…体調不良な人はいないから……」
「私は今日はラボのメンテナンスのために参加は出来ません」
「分かった。じゃあタルタロスへ行くのならアイギスは無理だとして……誰か足りないな?」
 ズラッと朝食を食べながら見渡してみると、確かに食べられるのを待っている朝食のメニューが一つだけそこに置いてあった。
 俺、順平、真田先輩、桐条先輩、山岸、天田、アイギス、荒垣さん、それとテレビの近くでドッグフードをかぶりついているコロマルだった。

 うん、確かに足りなかった。

「岳羽がまだ来てないな」
「今日何曜日だっけ?」
「土曜日でありますね」
 それじゃ火、金の部活の朝練じゃないなと思いながら、ひとまず食事を中断してもらって、山岸と桐条先輩に様子を見てもらうことにした。
 一応三階の女子の部屋は男子は基本的に立ち入り禁止だ。俺だってまだ誰かの部屋に入った事が無い。

 え? いつも入っているじゃないかって? 今回はそういう時期なんだ。

「まさか岳羽に限って遅刻とは思えないがな」
「風邪でも引いたのでしょうか?」
「すいませんが、確認をお願いします」
 二人は仕方ないと思いながらも、仲間が倒れているのではないかと心配しながらいつもより速い足で階段を駆け上っていった。当然だが、早く戻って食事を食べたいというのもあったんだろう。

 数分後、山岸の悲鳴と珍しく慌てている様子の桐条先輩の声が上から聞こえてきたのだった。

 当然の事だが、俺たち男メンバーはこの際寮則をぶち壊して三階の二人がいる場所へと向かった。勿論彼女達がいたのは三階奥の部屋だった。
「何があったんですか?」
「あ、あ、ああ……これを…見てくれ」
 桐条先輩は真っ直ぐに岳羽の部屋の中を指差している。ただ、その目は恐怖とかではなく驚愕に近かったことだけは覚えている。
 順平なんかはここぞとばかりに女の子の部屋を覗けるとあって意気揚々と俺よりも先に見て。
 時が止まった。
 順平にどうしたと聞いてもこいつは何も答えない。ただ目の前の現状に疑問符を浮かべてるだけだった。
 それに追い討ちをかけるように先輩達も見て、やっぱり時が止まっている。なんか俺だけ見てないのは悔しい気分だ。
 さすがに俺だけ見てないのは疎外感と、何よりも彼女の部屋を見るいい機会だと、仏像のように佇んでいる順平を押し退けて見る事にした。
 俺の時も止まった。
 そこにはあどけない表情ですやすやと眠る茶髪の少女、むしろ幼女が眠っていた。
「なんで?」
 俺の一言はそれに尽きた。またその一方で、そこで眠っている幼女の姿にデジャ・ヴを感じてもいた。

 数分間だけ時を膠着する事が出来た。幼女の眠っている愛らしい(俺は別にそういう趣味は無い)姿を見て、誰もが和んでいた。後から付いてきた天田やアイギスでさえほのぼのとその寝姿を見ている。
 とは言え、さすがにこの寮に部外者がいるのはどうかと思うので起こさざるを得ない。ましてや今日は学校がある。あまり時間を取りたくなかった。
「お邪魔します」
「何をするつもりだ?」
「いや、起こして事情を聞かないと駄目でしょう? それに岳羽がどこに行ったのかも分かってないんですし」
 この際寮則については触れないでおこう。というか事情が事情なだけにそんな些細な事を気にする人間もいなかった。
「ねえ、君」
 十分に(わずか数秒だが、網膜に焼き付けた)寝顔を堪能した後に幼女を揺り動かしてみる。ここで起こすのはちょっと気が引けるが、他のメンバーが起こす気配が無い以上どうしようもない。
「……ん」
 幼女に似合わないほど大きなピンクの枕を半ば抱き枕としてその子は眠っていた。その点については特に問題は無いのだが、何かがおかしい。
 その件について理解するのは数十秒後だった。
「ねえ、起きな?」
「……ん?」
 眠気眼という表情がシックリ来るほどその子は眠い目をこすってパチパチと瞳を開ける。その度に茶色の瞳がこちらを見ては閉じられるが、ますますこの部屋の住人の面影がそこにはあった。
 凄いぶかぶかのパジャマを羽織ってその子は頭をやじろべえの様に振りながら起きる。まだ何がなんだか分かってないのか、部屋のあちこちをぼんやりと眺めていた。
 ああ、さっきのおかしな点は体格とパジャマが合ってない事か。
「わ……ふ…おはよう……」
「ああ、おはよう……じゃなくて」
「?」
 いやもうそんな無垢な顔で俺を見ないでくれ。だからと言ってここでうろたえれば犯罪を犯そうとしている人間じゃないか俺は。
「君は誰だい?」
 質問された意味が分かってないのか、首を傾げて真っ直ぐに俺を見ている。ちょっと可愛いなと思ったのは墓まで他言しないようにしよう。
 そしてその後に出てきた答えは、俺だけじゃなくて他のメンバー全員も驚愕せざるを得なかった。

「うんとね、“たけばゆかり”です」

 え?
「えっと…本当に?」
「うん!」
 どうしよう、そんな空気が漂っている。
「…すまないが、君が岳羽なのか?」
 思わず桐条先輩も尋ね返してしまう。そりゃそうだろう、俺達が知っている岳羽は俺と同じクラスメートであって目の前の幼女ではない。
「ワン!」
「コロマルさんは事実だと仰ってます。匂いが同じだと言ってます」
 マジですか?
「え、ちょ、コロマル。それが本当ならゆかりッチがちっちゃくなっちゃったって言いたいの?」
「そのようです」
 岳羽を名乗る幼女、と言うよりもコロマルが肯定をしている以上本人だろう。とにかく言える事は、岳羽が何故か突然10歳くらい若返っていると言う事実だけが俺達に突きつけられた。

 という事もあったが、さすがに学校に行かなくてはならないと順平達と一緒に学校に行こうと思った。
「だが、この状況で岳羽はどうする?」
 仕方ないので、とりあえず岳羽を一階のテーブルまで連れてきて、そこで会議を行う事になった。ちなみに今彼女が着ているのは、寮の風呂から出てきた後にいつも着ているパジャマ、ただしサイズがあまりにも違いすぎるためぶかぶかな物だ。
「ゆかりちゃんはさすがに学校は休みですよね…だとしても、服とかどうします?」
 当然ながらこの寮に子ども用の服装なんて誰一人持ってない。ただの荷物でしかないそれを持っているほうが珍しいだろう。
 そういえばと、ふと自分のペルソナを頭の中で一つだけ呼び出してみた。完全に呼び出してはいないのでこの際召喚器は必要ない。
『どうしたのお兄ちゃん?』
 幼女、そうだ、俺のペルソナの中にも幼女が一人だけいたのだ。
『アリス、お兄ちゃんからお願いがある』
『どうしたの? そんな改まって…もしかして結婚してくれるの?』
『残念だがそれは違う。それは後日かも知れないし永遠に来ないかも知れない、代わりに脱げ』
『死んでくれる?』
 そんなやり取りを頭の中でしていたが、周りからは凄い目で見られていた。当然だが俺は頭の中でペルソナと会話していたので、実際には独り言をしているわけじゃない。
「あ、リーダーが突然闇の攻撃を食らいました!」
「ホムンクルスが発動したぞ!」
「貴重なものを使うんじゃねぇ!」
 俺が悪いんじゃない、勝手に怒ったアリスが悪いんだと責任転嫁をしながらも頭の中では脱がそうとしている俺と、必死に『死んでくれる?』を連発しながら抵抗をしているアリスがいた。
 意味は無いんだが、俺はその際にホムンクルスを使いきったと明記しておこう。
「ふぅ、何とかオッケーだ」
「お前何をしていたんだよ?」
「洋服ならどうにかなった。とりあえず岳羽にこれでも着せておいて」
 全員が怪訝な表情で俺の手元を見てみると、最近作り出したアリスの洋服がそこには納まっていた。やっぱり全員が俺の事を怪しい人を見る目で見ていたけど緊急事態だ。
『うう……お兄ちゃんに汚された……』
 何故か俺の事をアリスはお兄ちゃんと呼んでいるが、それも慣れたので気にしない事にした。
 結局、数分後に一旦上の階へ上がってまた降りてきた時には岳羽はアリスの格好をしていた。凄い背徳感があるのは、やはり一人を脱がして着せた服だからだろうか、それとも幼くなったとは言え仲間にコスプレ紛いの事をさせた事なのだろうか。
 …どうでもいいと悟った。
「おにいちゃんありがとう」
「はいはい……」
 満面の笑みを返されると、俺としてはどう反応をしたらいいのか分からない。こういう自体は苦手と言うか、子どもは何を考えているのか分からないから尚更だ。
「それじゃ俺達は学校へと……」
「待ちな」
「どうした、シンジ?」
「コイツどうするつもりだ?」
 荒垣さんは言うまでも無く幼女となった岳羽を指差して言い放つ。一応休学中の荒垣さんが面倒を見ると言うのが一番妥当なのかもしれない。
「俺はさすがに面倒を見れねぇぞ。どう扱ったら良いのか分かったもんじゃねぇし、これから出かけなくちゃならねぇ」
「ふむ…では誰かが本日は学校を休みという事にし、彼女の面倒を見てやってくれ」
「では僕は無理ですね。義務教育の最中ですからサボるわけにも行きません」
 そもそも天田に頼む事は無いだろう。ましてや順平かアイギスに頼むのは至難の技だ。真田先輩や桐条先輩に頼んでもどうなるか分かったものではないし、山岸にいたっては昼食が問題だった。
「……俺?」
 消去法万歳。そうとでも言うように全員で揃って俺に向かって敬礼を行う。うわ、なんかその極上の笑みが腹立たしい事この上ない。
 それと順平には適当にY子もとい鳥海先生に理由をつけて休むと伝えてもらう事にした。
 当然だが俺と岳羽が揃って休むとなるので、ある程度理由は濁した状況としてもらう。そこは順平に頼ってみよう。無理だろうけど。
 そして全員で揃ってがんばれの一言を残し、荒垣さんも同時にさっさと出かけていった。残ったのは散歩を待ち望んでリードを咥えて俺の足元に立つコロマルと、騒ぎの張本人である岳羽と俺だけだった。
「どうするんだ……?」
 その答えを誰かが持ってきてくれるほど人生は甘くなかった。

 仕方が無いので俺は即座に自室へ戻ると私服に着替え、これからどうするかと悩む事にした。けれど悩んだ所でこの現状を打破できるほど冷静になってなかった事もあり、仕方なくコロマルの散歩から始める事にした。
 しかし荒垣さんは今日俺が仕方なしにサボらなかったら誰が散歩に連れて行く予定だったんだろうか?
「行くぞ、コロマル」
「ワウ!」
「おにいちゃん、どこにいくの?」
 あ……いきなり存在を忘れていたよ。コロマルに興味津々なのか目を輝かせて俺が持っているリードを見ている。
「…散歩、行きたいの?」
「うん!」
 溜息と一緒にリードを出して、岳羽の手にしっかりと持たせる。正直大丈夫なのかと思ったので、コロマルにはちゃんとペースを考えて歩くようにと釘を刺す。
 しかし、土曜日とは言え平日の午前中に女の子と一緒に散歩に行く高校生って周りの目にはどう写るんだろうか? どうでもいいか、うん、どうでもいい。
 そんな事を考えていると先ほどまで足元でリードを持って嬉しそうにしていた岳羽がいなくなっていた事に気づく。それと共に玄関先でう〜う〜唸っている声も聞こえてきた。
「あ〜か〜な〜い〜の〜、あ〜か〜な〜い〜よ〜」
 出てきた言葉と共に湧き上がる脱力感と膝と掌に感じる床のカーペットの感触。そりゃそうだ、意外とこの寮の玄関は重たいんだ、幼女の力で開くほど柔な造りじゃないんだよね。
「分かった分かった…今開けるからちょっと退いてね」
 今日は後何回ため息をつけば終わるんだろう。
 人間って溜息をすれば幸せが逃げるって言われているけど、それってつまりは溜息=幸せと言う定義になるんじゃないかとかどうでもいい事を考えて、俺達は朝の散歩へ向かう事にした。
「さて、どこへ行くっ……って言われても、岳羽は分かるのか?」
「むぅ……」
「どうしたの? そんな膨れっ面しちゃって?」
「そのいいかた、なんかやだ!」
「やだって言われてもね……」
「ゆかりってよんでくれなきゃやだ! パパもママもそういっているんだし!」
 その言葉に何か引っかかりを覚えた俺は、目標など無く散歩をしている最中に横にいた岳羽に質問をしてみる。
「ん…っと、君は今いくつ?」
 その言葉に反応をした彼女はリードを持ってない手で俺に見えるように掌を大きく広げて見せた。大きくと言っても、所詮は子どもの大きさだ。俺の掌に納まるか収まらないかのギリギリな所だろう。
「五歳?」
「うん!」
 俺に分かってもらえたのか、岳羽は大きく頷いて俺に正解を表現した。
 五歳、そうだ、五歳だ。俺の両親が亡くなったのは俺が六歳の頃、同じ年に岳羽の父親が亡くなったのは皆知っている。
 先ほどの行動や言動から察するに、彼女は五歳までの記憶しかないようだ。つまり幼くなった時の外見がそのまま記憶に反映されている。
 と言う事は、これから彼女にとって後一年以内に何もかもが変わり果ててしまうのかと思うと、少し可哀想に思えてくる。
 だけどその一方で、そうならなくては今の彼女が存在していない事も事実だった。
 勝気で言いたい事は何でも言うし、たまに俺や順平に対して厳しいツッコミを披露する事もあるけど、それでいてお化けが苦手とかそういったどこにでもいそうでいない、最近ただの仲間やクラスメートとして見なくなってきてしまった彼女を――。
「……どうしたの、おにいちゃん?」
「なんでもないさ」
 ここで疑問点が出てくる。記憶が年齢と共に修正されているのに、なんで寮の中にいた時に皆に対して疑問に思わなかったのか。そして俺に対して警戒心の欠片も無い事も気になった。
「ねぇ、お父さんやお母さんは?」
「パパはおしごと! ママはいっつもパパのおしごとのかえりがおそいっておこってるの!」
 厳密にはそれを聞きたいんじゃなくて、どうしてお母さんがいないことに関して平気でいられるんだろうか?
 まぁ、そこらに関しては何かしろこの事情と関係があるんだろうと思って結論を付けた。

 そのままコロマルと一緒にフラフラと歩いていると、気が付けばポロニアンモールの方まで辿り着いた。横でコロマルの歩くスピードに追いつけずにちょっとだけ引きずられている彼女を見て微笑ましく思った。
 どうも時間が立つのが早いなと思いながら、左手に付けた腕時計を確認すると、もうすぐお昼になりそうな時間だった。結構長い間散歩をしていたんだな。
「ううぅ…おなかペコペコになっちゃった……」
「はいはい、どこか食べる場所があったよね」
 この際俺が奢る事になったのは気にしない方向だ。いくらなんでも岳羽に払わせるわけにも行かないし、元の状態での時のデートだって俺がいつも奢っていたし。
 デート、か……いくらなんでもこの場合もデートと呼べるのだろうか? いや、さすがに無理があるだろう。
「岳……ゆかりは何が食べたい?」
 さっきまでと同じ言い方で話そうとしたら不機嫌そうに頬を膨らませていたので、しょうがなく親が子どもに言うであろう最もポピュラーな呼び方、つまり名前で呼ぶことにした。
「おこさまランチ!」
 ああもう、本当に分かりやすいなと和みながら俺達は近くにあったファミレスに向かう事となった。当然コロマルはその近くの木に括りつけておく。

 店員に白い目で見られようと、そこら辺はあまり気にしなかった。俺自身に恥ずべき点は無いのだし、むしろ客がどんなのであれ誠意をもって対応するのが店員ではないのだろうか?
 そんな事を考えていると同じように自動ドアを開けながら満腹と言わんばかりにお腹を両手で押さえている岳羽がいた。このあたりは十年前であろうと無かろうとあまり変わってないようだ。
「満腹?」
 そう尋ねると、余程美味しかったのかまたしても大きく頷いてコロマルの元へと駆け出していく。
 そして歩き始めて少し経つと、噴水から見える路地裏、いつもであれば俺しか行かないであろう青い扉の部屋が一段と輝いているのが気になった。
「あのさコロマル、ゆかり…ちょっとだけここで待っててくれないかな?」
「どうして?」
「うーん、ちょっと気になる事があるからね、すぐ戻るから」
 ちょっと寂しそうな顔をしているけど、いつもお父さんを待っているからか、お留守番していると言いながらベンチにヨイショと座りだした。
 俺はそれを確認すると、すぐに戻ってこれるようにベルベットルームへと向かった。

「エリザベス、一つ聞くぞ。答えはイエスオアノー、拒否権は認めない」
「イエス」
「今回の岳羽が五歳になったのはお前が原因か?」
「イエス」
 おい、何しているんだこの女。
「何故そんな事をした?」
「イエスオアノーで答えられない質問をするとは…つくづくあなたは意地が悪いですね」
「拒否権や嘘は認めないが、俺に質問に普通に答えてくれ。何故そんな事をした?」
 エリザベスと長い鼻、何て名前だか忘れたが、とりあえずその二人は俺を見ている。
 方や『面白そうなおもちゃを見つけて楽しそうに見ている』女性。方や『あなたもまた厄介ごとに巻き込まれたのですか……』という哀れみを含めた鼻。
「暇だったから…では駄目なのでしょうか?」
「駄目に決まっているだろ、どうやって戻す?」
「戻し方ですか…それを聞いて貴方はいかがなされますか?」
「戻すに決まっているだろ。いつまでもあんな状況じゃ学校にも行けないし、他のメンバーの迷惑にもなってしまう」
 エリザベスはやはり俺を見ている。今度は『本当にそれだけが理由ですか?』などと言う理由があったが、俺には何故そんな顔をするのか分からない。
 そして、これから出てくる言葉は俺の予想の範疇を遥かに上回って今なら月にまで飛んでいけそうな勢いだった。

「彼女の姿を戻す方法は異性の体液を飲む事です」

「おい!?」
 直球にも程があるだろこの女!?
「いえ、貴方がよろしければ別に精え…または汗、唾液などがありますが。そういう嗜好ならばもっと危険なものもありますけども」
「俺の股間を見ながら言うな」
 やはりメギドラオンを使い放題のエリザベスとて直球の言葉は禁句だったか、閲覧制限引っかかりそうだしな。
「言い方を変えましょう。異性の口付け、しかもディープなものであれば問題はないかと。そうすれば唾液を幼い五歳の幼女に含ませる事が出来ますが…」
「待て、誰かがそれを行えと?」
 犯罪だぞ犯罪。倫理的に問題ありまくりじゃないか。
「では、僭越ながらこの私が……」
「帰れ鼻」
 とりあえずマウントポジションを取ってボッコボッコに殴り始める。その様子を見てエリザベスはそっと俺の手に自分の手を添えて……。
「指は握ってベアナックルにするのが妥当かと思われます」
「オッケー」
 その後は力の限りベアナックルを始めた。そのままの勢いで奴の鼻を圧し折らんばかりに握ってやったら、『らめぇぇぇぇぇ!!』とかふざけた台詞を吐いたので容赦はしなかった。するつもりも更々無いし何よりも冗談でも言って良い事と悪い事がある。曲りなりにも自分の気になっている女の子がちっちゃくなっていて、その状態で性的に様々な事をしようとは俺の怒りを買うには十分だ。
 鼻がありえない方向に曲がったこの部屋の主は床でピクピク痙攣をしているけど、それを気にもせず、ましてや従者であるエリザベスですら鼻をスルーして俺は元のポロニアンモールへと帰った。