【逝ってみよう、ヤッてみよう】
「なあ」
「何だ?」
ふと、ロビーで暇を持て余していた順平とリーダーは、順平の唐突な思いつきによって脳内を活性化させた。
片方、性欲は持て余していないが。
「ふと思ったんだけどよ、真田先輩と桐条先輩って仲良すぎじゃねぇ?」
「ま、あの二人は三年前からのパートナーだからな」
「じゃあ何で桐条先輩は荒垣先輩の事を苗字で呼ぶんだ?」
「さー……なんでだろ?」
美鶴から荒垣さんへは『荒垣』となっているのに対して、真田先輩は『明彦』となっている。
「この差って、なんだろ?」
「時間?」
「いや、好感度かね?」
「……なんだろうな」
そんな事を呟いてその場はお開きになったが、それを詳しく追求する日が来るとは思いもしなかった。
それは食事中に起きた。至って普通に皆で食卓を囲んで食事をする姿。そこには何も変わらない何かがあった。
ちなみに席はこんな感じ。
風花、順平、リーダー、ゆかり
荒垣 [===========] コロマル
アイギス、明彦、美鶴、天田
つか、どうやっても天田の呼称は天田でしかないんだと思うんだ。乾って呼び方は一般的じゃないしな。
後、何事も無いようにゆかりとアイギスの席の位置が対極な事も気になった。
と言うかアイギスの食事方法ってなんだろう? モービル1?
などなど、とりあえずツッコミ所が満載なので各自考察してほしい。
そして普通に団欒をしながら食事をしていると、美鶴は明彦の顔を見てこう言った。
「明彦」
「なんだ?」
男らしく勢いよく食べていた明彦は突然の呼びかけに手を休めた。
「頬が米粒を食べているぞ」
「ああ、すまん」
「全く、世話のかかる奴だ」
ヒョイ、パク
「Σ(゚Д゚;)」×6
「(´・ω・`)?」
ほぼ全員ぶったまげた。だが当の本人たちは全くと言って良いほど。犬は何が起きたのか分かってない。荒垣さんは平然としている。
「どうした? お前達」
「いや、お二人とも、何やっているんですか?」
「何って……ご飯粒を取っただけだが」
「いやいやいやいや、その後その後」
「なにかおかしいのか? この程度で捨てるとは百姓に申し訳ないだろう」
何かが根本的に彼らの中で違うようです。
(ねぇ、この人達ってさ)
(本当にデキてないの?)
(凄いですね……)
これがこの二人の仲では普通のようです。
「さっさと飯を食うぞ」
荒垣さんの一言でその場は収まったが、食事後もこの話題で盛り上がっていたりする。
「さて、お久しぶりです。伊織順平アワーの時間がやってまいりました」
「またかこの馬鹿は」
ゆかりの貶しも何のその、水を得た魚のように生き生きとしながら順平は語りかける。
「前回はリーダーとゆかりッチしか観客がいなかったのに、今回はまた豪勢になりましたね」
「質問であります順平さん」
「どうぞ」
「伊織順平アワーで恒例となっているコーナーは何でありますか?」
「勿論伊織順平様による怖い話です」
「ちょっと止めてよそういうの!」
みんなの談笑も何のその、一人だけ『何故自分がいるのか分からない』という顔をしている荒垣さんがいた。
「荒垣さんは今回コメンテーターとして呼んでます」
「何故だ?」
「お二人の過去を知る唯一の人だからです」
「興味ねぇな」
「またまたぁ、昔は二人で争ってたんじゃないんですか?」
「馬鹿かお前は!?」
「桐条先輩と真田先輩を取り合っていたんですね!?」
「んな訳ねぇだろ!! お前落ち着け!」
風花に先輩無理を仰らないでくださいと言われ、ちょっと遠い目をする荒垣さん。
俺の知るS.E.E.S.はどこへ行ったんだろうか……
「さて、実際の所あの二人付き合ってんじゃねぇの? と思う所が多々あるので、昔を知る荒垣さんに色々白状してもらいましょう」
「断った場合はどうするつもりだ?」
「一週間風花の料理だけで生きてもらいます。ちなみに俺達の食事は全部荒垣さんに作ってもらいますのでそこの所宜しく」
「意味ワカラネェよ!」
彼の料理は一級品だと寮のメンバーは語る。コロマルはどちらかと言えば高級ドッグフードを自腹で買ってきてくれる彼の優しさに気を許しているんだが。
「さぁ、死か白状かどちらかを選んでください」
そこで風花が黒い表情で『私の料理は死なのか』と無言の圧力をぶつけて来たが、誰もが知る事実なので何も言わない。
「……一つだけ言える事がある。俺がいた時は二人は普通の呼び方だった」
今の二人から桐条、真田と言う互いの呼び方は最早見当もつかない。
「つまり、荒垣さんがいなくなってこの面子の中で一番早くからいたゆかりッチが来るまでの間に何かあった、そういう事か」
「だろうな、興味無いがな」
「じゃあ今度二人が一緒に出かけたら後を着いていくで確定か?」
リーダーらしく最終的な決を採る。
「賛成です」
会話に参加してない天田が同意したのと同時に、約一名を除いて他の面子も首を縦に振る。
「俺は行かねぇぞ。調べるまでもねぇ」
「運命共同体です」
哀れ荒垣さん。まさに運命です。
問題はそんな日がやってくるのかと思っていると、意外にも次の日だったりする。
「これが御都合主義ですか。なるほどなー」
「言うなアイギス」
ちなみに今日二人は買い物に行っている。当然真田先輩は荷物持ちという名目で。
「さて、行くか」
「どうやって尾行するつもりですか?」
天田の的確なツッコミが出てくる。乗り気じゃないながらもちゃんと考えている少年だこと。
「よし、こっちも二人一組になって尾行しよう」
「てゆーかそれってデートしながらって事?」
ゆかりさんある意味暴言。
「よし、組み合わせはジャンケン……と言いたい所だけど、それだと何らかの因縁によって男同士になる確率が高いので、順当にペアを組みたい人同士にしましょう」
早速手を上げて立候補するアイギス。
「リーダーとペアを組む事を希望します! これは必然です! 需要の高さです!!」
「マテやこら」
「あらゆかりさん、何かご不満でも?」
いつもの通り彼女達の七日間戦争が今始まった。
「で? お前達はどうするつもりだ?」
「荒垣さんはどうするつもりですか?」
「俺には関係ねぇ。一人で行く」
「じゃあ私と行きますか?」
え、何そのフラグ?
「え、風花は俺と行かないの?」
「何でですか?」
順平吐血。
「せっかくですしお料理の作り方を教えてほしいんですけど」
「そりゃ構いはしねぇんだが…」
荒垣さんはちょっと順平に同情している。ついでに風花の料理の腕にかなり不安がっている。
「ルールルールルルルールルー……」
何故か徹○の部屋のテーマソング。
「じゃあ僕はコロマルと散歩してきます」
天田は勝手に行き、順平は一人ぼっちとなる。
「ひとーりぼーっちの夜ー……」
よし、順平、とりあえず皮を剥いて歩け。違う、上を向いて歩け。
その頃三人組は。
「てゆーかアイギス、彼の考えもちゃんと考えてよ!」
「補正かかってその人気の分際で何を言っている!?」
「お前達三人ヒロインの中の人の補正が強すぎるくせに何を言う!?」
言うなよゆかりッチ。それは禁句じゃないか。
「よし、ここは彼に決めてもらおうじゃないよ!」
「え゛?」
「さあ、今夜のご注文は、DOCCHI!?」
「夜までご継続!? その後白河通りコース!?!」
リーダー、そこらへんはちゃんと需要という名の空気を読んでいるようです。
その頃。美鶴と明彦はと言うと。
「美鶴、まだ買い物を続けるのか?」
「ああ、皆にいつも世話になっているからな、何かプレゼントでも、と思ってな……」
「そうだな、あいつらは気がつけば成長をしている。俺達が追いつかれても仕方ない位にな」
彼らが買い物に出た理由、それはいつも戦いに出ているのに施しなど、そういった物が無いなと美鶴は思った事がきっかけだった。
当然何をしようか一人で悩んでいたのだが、そこは何年も続いているパートナー、明彦は美鶴の考えと手伝いを申し出ていた。
「彼らは適正がある、それだけで半ば強引に仲間になってもらった者も少なくないからな」
以前ゆかりに言われた事を思い出す二人。
明彦は戦う理由が無く、ただ戦いたいからなのか、と。
美鶴は真実を伝えないで利用しているのでは、と。
「あの時の空気はどこへ行ったんだろうな」
「今では毎日が楽しいからな」
まぁ、結構な面子がハジけたと言うか、壊れたというか、欲望に忠実になったというか。
具体的にはリーダーは鬼畜が暴露され。
ゆかりはその被害者となり。
天田は腹黒属性が判明し。
風花は以前PCの中身を全暴露という罰ゲームがあったため、大変な事になり。
アイギスは乙女回路が熱暴走を起こしたり。
テレッテはいつもテレッテだし。
荒垣さんはそんな奴らに振り回されたり。
コロマルはそんな面子を笑ったり。
そんな楽しい毎日。
「このような日々がいつまでも続けば良いのにな」
「……ああ」
しみじみとしている所悪いのですが、いつまでも続くとここの中でいろいろ大変な事が起きそうな気がします。
こんな世界を垣間見たよ。
リーダー、とうとうチョーカーを首輪にさせて夜中の散歩を試みる。
風花、壁サークルへと変貌。メンバーとして千尋も。
アイギス、リーダーを誘拐し、色々ナニをする。
テレッテ、テレッテテ。
ガキさん、ツッコミを行う。
「……もう少し改善した方がいいな」
「……ああ」
特にリーダーは風紀的にもヤバいと思う。これで生徒会に所属して風紀に関して真面目に討論しているんだから尚更性質が悪い。
その後二人は買い物も終了し、軽く休憩しようとオープンカフェで『漫画でよくある大きなグラスに二人で一つを飲むタイプのジュース』を頼んでいた。
「何であれ頼んで全くもって進展が無いのでしょうか?」
「シラネェよ」
「荒垣さんもしかして妬いてます?」
「ンな訳あるか」
ちょっと外れた所で風花と荒垣(後順平)は尾行を続けている。
ちなみにリーダー達はそのまま白河通りへ向かったそうな。
三 身 合 体!!
それと天田は最早何事も無いように散歩を続ける事に。
「それとその、何だ、明彦……」
「何だ?」
「お前もこれを飲まないのか? いくらなんでも私だけでは飲みきれないのだが……」
「分かった、俺も飲もう」
そう言いながら、今美鶴が飲んでいる途中のジュースを反対側から何事も無いように明彦は飲み始める。
「あ、明彦ッ!」
「何だ?」
「わ、私も今飲んでいる最中なんだぞ!」
「お前が飲めと言ったから飲んでいるんだろうが」
思わず美鶴はハイレグアーマーやビーストタイツをリーダーから。
『ねぇ、これ着てくださいよ。リーダーの俺がせっかく強い装備を渡しているんですから、ね?
ね? ね!?』
と言われて仕方なく着た時の様な顔をして咳き込む。
とりあえずあの時のリーダーは単なるセクハラ親父以外の何者でもなかった。
実を言うと昨日の行動だって凄い恥ずかしかった。だけどこのニブチンはこうでもしないと意味は無い、というかこれでも全く効果が無い。
「…明彦、お前はどうしてそんなに鈍いのだ?」
「何を言う? 反射神経ならば誰にも負けんぞ」
その返答自体が全てを物語っているんだろう、と美鶴は心の中で真剣に思っていた。
「もしかして、何ですけど……」
「何だ?」
いまだ観察中の風花と荒垣は、先程の二人でカップルジュースを飲んだ瞬間を見てかなり吹き出した。
順平は空気。
「桐条先輩って真田先輩に気があるんだけど、私達の前じゃ真田先輩のように分かってないフリをしているんじゃないでしょうか?」
「何を今更。てゆーかあれは日常茶飯事だ。アキが劇的にバカなだけだ」
それと荒垣は付け加えるように調べるまでもねぇと言ったはずだとも言っていた。
「…分かったなら戻りましょうか?」
「ん、ああ」
順平は無言でその後を付いていく。不憫だ。
実は二人の仮説は間違っている事など気づきもしなかった。
二人の買い物も終了し、そろそろ帰るかと二人は街中を歩いていた。
「やれやれ、とんだ災難だったな」
何と言うか、漫画でよくあるようなタワーでも出来そうな荷物を抱えた明彦は呟いた。
「すまないな…」
「何、気にするな。俺もちょうど暇だったからな」
それにな…と明彦はそっぽを向いて独り言の様に小さな声で呟いた。
「買い物相手がお前じゃなかったら来なかっただろうな……」
その言葉を聞き逃すはずも無く、美鶴は一人どうしていいのか分からなくなっていた。
え、こいつ何年間もさり気なくアプローチをしていたが、全てスルーしていたような鈍い奴じゃなかったのか?
と。
「あ、明彦? 今なんて言った?」
思わず声が上ずった状態で問いただしてしまう。自分らしくも無い。
「な、なんでもない!」
彼も独り言を言ったことにちょっとだけ後悔する。
「頼む! その言葉が何なのか知りたい! でなければ夜も眠れん!」
「寝てろ!」
「どうやって寝ろと!?」
「俺がゴニョゴニョ……」
精神コマンド自爆。消費SP1だが、現在の自分のHPそのままを隣接する敵味方に100%相手に与える事が出来る。
長い沈黙の後、結局明彦はいつも通りにならざるを得ない。
「とりあえず帰るか」
何も気づかないほうがいい、それは全てが終わってからでも。そう思い、自分を偽り続ける。
本当にそれでいいの?
今となっては懐かしい、もう二度と聞こえない声が聞こえる。
いいんだ、これで。自分と彼女とでは住む世界が違う。
例え共有している時間があっても……。
そう思いながら、思い込みながら彼は今はもういない妹に向けて言葉を送る。
俺は二度と大切な人を守れない人間になりたくない。だから今は強くなるだけだ。それまでは気づかないフリをし続けるさ。
「明彦、おい、明彦!」
気がつけば隣にいる女性に大声で注意をされていた。
「まったく、もう寮に着いただろう? どこへ行くつもりだったんだ?」
「ああ、少し考え事をな」
「荷物が落ちたらどうするつもりだったんだ?」
「その時はお前が拾ってくれるだろう?」
いつもの風景、端から見れば恋人同士のじゃれ合い。だけどまだそうじゃない。
彼らは戦いがある限りパートナー同士だから。
「さて、彼らはこの荷物を見てどう思うかな?」
「反応を見るのが楽しみだな」
二人はいつも通り、ペルソナ使いとしてこの寮に戻ってきたのだった。
そこには何事も無いように生活している二人だけど片方が吐血していたりショボン状態の順平や、もうこの件については関わらないと心に決めた天田がそこにいた。
ちなみにリーダー達は次の日に白河通りから帰ってきた。
「お前はもう少し高校生らしい生活を送れ!」
やっぱりリーダーは処刑された。