【絶望欲望クリスマス】



「メリークリスマス……」
 彼女はそう呟くと彼が腰掛けているベッドに体を寄せて来る。今の格好はサンタのコスプレで定番であるズボンは履いてないあれだ。
 普段の様子からは想像が付かないほど積極的な姿に邪な感情を抱かないと言うのか、いいや無理だね。(反語)

スイッチを押させるなー!!
いいや限界だね! 押すさ!

「なんで…こんな時間に?」
彼は基本的かつ常識的な事を尋ねる。無理もない、既に時は草木も眠る丑三つ時。普通に考えて皆寝ているだろうし、厳密に時を考えればクリスマスも終わっている。
「だって……」
恥じらいながら見ている様に塗り固めていた理性という皮が一枚剥げる。
ちなみにミニスカなのにオーバーニーソックスなのは殺傷能力が高いと思うのですよ。絶対領域ですよ旦那。
その領域から覗く太股にまたしても一枚剥げる。このままでは理性で封印した筈の本能が垣間見える。
「こんな時間だからじゃ……ダメ?」
メリメリと本能さんこんにちは。
「駄目じゃないが……」
 あまりにも唐突な事態に思わず後ずさりする形となり、彼女は追うように彼のベッドに膝を付いて潤んだ瞳で見ている。
「聖夜を好きな人と一緒にいたいっていうのはいけない事なの?」
 本能よ、その力を解放しろ……。
「ああ……どうでもいい」
「どうでもいいって事は嫌じゃないって事だよね……」
 よく分かってらっしゃると彼は思う。正に聖夜は性夜へと変わるだろう、それを期待しながら、そしてそれに応えるようにコスチュームのボタンに手をかけている。
 ゆっくりと、まるで彼を焦らすように手をかけ、一定の数を外し終えると、抑止力の無くなった服は重力に流されるままにベッドの上に落ちる。

 そんな所で目が覚めた。



 何と言うか、凄い肩透かしを食らった気分となった。例えて言うなら友人から借りた好きな女優、または好きな女の子に似ていると噂されている(本人ではないのは証明済)AVを見て、これからフィニッシュという時に別の落語とかに上書きされていた瞬間か、それとも親が部屋の扉を開けてきた瞬間か。
 それとも四月の引越し早々深夜に早速触手エロゲをやろうとして、『待ってろ俺の触手ちゃん』と意気込んでいたのに突然起きてと言われて中断せざるを得なかったマジシャン戦か。あの時本気で俺に触手があればお前を襲おうと思ったんだぞと思う位。
 その後一週間気絶していたからPC付けっぱなしだったんだけどね。よかった、部屋を調べられてPC付けっぱなしなので消そうと立ち上げた時に『らめぇぇぇぇ!!』とか叫んでいながら餌食になっている女性達が画面にドンと出てこなくて。
 だがそれを見て興奮してエロゲ的展開になって欲しかったなと思ってもそんな事なんて無い位。
 はたまた『お前せっかく多数の腕があるんだから倒れている彼女に多数の腕プレイとかしろよ何で俺に向かって突撃するんだマジシャン?』という位。
 はたまた『せっかく電気ケーブルという素晴らしい物を武器にしているんだから微弱電気で二人の弱点ヒットさせ続け触手プレイしろよハーミット』という位。
 後さっきから触手触手って俺はどこの佐倉君だよ? とか思ってしまう位。
 そんなどうでもいいフラストレーションが溜まった所で、彼の嗜好回路は現実へと帰った。

小さく、たった二度だけ彼の部屋のドアが音を鳴らした。
それで誰が鳴らしたなんて愚問に過ぎない。このような夜分に尋ねて来る人間なんてこの寮には一人しかいない。
「どうぞ」
「お邪魔しま〜す」
やはりと言うか何と言うか、控え目に扉を開けたのは彼の恋人たる人物だった。
この男女共用の寮の中で今の所は騒動になって無いものの、彼とて一人の男子高校生。ずっと我慢が出来るかと尋ねられたらノーと答えるだろう。
「……どうしたの? それにその格好は」
「あ、これ? 近所で商店街のクジ引きでもらったの」
今の彼女の格好はいわゆるサンタクロース。正直可愛いと思う彼がいたが、その一方で『サンタクロースの格好を女の子がするなら必ずやる事』をしていない事に人知れず嘆いた。
「それでクリスマスだからこの私が君にプレゼントをあげようってね」
そう言いながらちょっと恥ずかしいのか、今の格好と同じ位頬が紅潮していた。
「さて、良い子の君に私からプレゼントを……」
それにしてもこのゆかり、ノリノリである。
サンタというイメージ通りの白い袋の中からゴソゴソと中身を取り出している。だか……。
「あれ?」
「どうしたの?」
「あちゃ〜、もしかして私の部屋に忘れて来ちゃったみたい。今から取って来るから」
ちょっとしたドジをやらかしてくれたようだ。そこで格好いい特別課外活動部リーダーたる彼は閃いた。
 何はともあれ、例え彼氏であっても深夜寝静まった時間帯にコスプレをしてくる、否、彼氏だからこそ多少は警戒をしてもらいたいものだった。
 俺の欲望よ、理性よ、限界を超えろぉ!
「いや、大丈夫だ……」
「へ? って、ちょっと……」
今まさに部屋から出て行こうとするゆかりを後ろから抱き寄せていた。今の所特に抵抗らしいものは見せてない。恐らくまだ何をしているのか分かってない節があった。
「俺に対してのプレゼントは目の前にあるからな」
過剰に力を入れたら砕けてしまいそうになる程細くてプロポーションが整った腰に腕を回しながら耳元で小さく呟く。
「そうか、忘れたんじゃなくてプレゼントはゆかり自身だったのか。納得したよ」
「な、な、納得しないでよ! 本当に夕方渡したのじゃないのが…ん……」
首にあるチョーカーをいつもの様に外して何個付けたか分からないほどある彼という刻印をまた一つ増やす。始めは照れも有って力は無いけど見せていた抵抗も少しもすればしなくなり、彼の腕の中でおとなしくなった。
それを確認してから軽く口を上へと吊り上げ、すぐ近くの入口の扉の鍵を静かにロックしたのだった。

軽くてヒョイと持ち上げるのが容易なゆかりをそのままベッドへと運び、彼は座り込む。別にこれからするであろう行為は初めてじゃないし、もっと凄い事、例えば昼休みの屋上とかそんな所でも致した。
しかしながら目の前で彼の腕の中で丸く縮こまっている彼女は未だに慣れてないのか純なのか、顔を真っ赤にしながら潤んだ瞳で上目遣いに彼を見ている。
「ねぇ、やめようよ…」
「ダーメ。俺以外の男にもそんな警戒心じゃ困るからね」
いわゆる独占欲の塊だが、そう言われようと痛くも痒くもない。大事な人に対しての気持ちだから恥ずべき所は無いと本気で思っているから。
「それにしてもサンタさん」
「な、何…?」
「やっぱり良い子にはプレゼントを用意しているんだね」
そう言いながらも彼のしなやかな手は既にコスチュームの中へと侵入し、飽きるほど知った弱点を集中的に攻撃している。
「絶対に良い子じゃないでしょ君は……」
 必死に耐えようとしても、骨の隋まで知られている以上ゆかりのその表情までもが彼の興奮を掻き立てる。
 あー…ファルロスが元気になった。
 こんな時に十年来の親友の名前を出されても困るものだが、用法としては合っているのでどうしようもない。
「じゃあこうしよう。俺は悪い子だから深夜にやって来た可愛いサンタさんに悪戯をするんだ。朝まで終わらないと思ってね」
「ふぇ?」
 その言葉を皮切りに彼は先ほど見た夢の通りにボタンを一つ一つ外す。やはりと言うか何と言うか、彼女らしいピンク色のキャミソールが多少汗ばみ、肌にくっついている為にラインを強調している。それとほのかに香るボディーソープの匂いが確実に加速度マックスで理性をぶちのめす。
 こんにちは僕本能、一緒に戯ぼうよ。

 遊び相手は勿論決まってるから。これから長い時間の始まりだ。



 ご馳走様でした。星三つです!
 違う、何かが違う。

 そう思ったのは朝だった。