月光館学園特別課外活動部タルタロスアタックチームリーダー、佐倉桜という少年は謎が多い。
無表情で何事にもクール。
転校して来たばかりの、なれない筈の環境下で成績は常に学年トップ。
ただ其処に居るだけで存在を感じさせるカリスマ性。
そうでありながら、何事からも一歩下がったスタイル――怪我をする心配がない間は、ただ子供を見守るような大人の包容力とでもいうべきか。
不良学生の溜まり場である裏路地にも単身平気で足を踏み入れる胆力。
ペルソナを使えるとは言え、高校生という若輩がその身に宿すにはどれも異常である。
冷たい情熱を宿す。
そんな歳不相応な何かを背負う少年。

それゆえに彼は美鶴から生徒会に誘われたのだが、その生徒会でも実に如才ない。
あの小田桐さえも彼を無二の親友と慕い、異性が苦手な伏見でさえ、今や笑顔で話しかけてくる。
良く出来た生徒。
だがある意味では、完璧すぎるが故に教師でさえ持て余す生徒。
隙がなさ過ぎるのだ、彼は。

そんな彼も、実は困った所がある。
休日祝日等は夜遅くまで寮に戻らず、仲間達をやきもきさせるのだ。
稀に放課後から深夜まで帰ってこない事もあった為、美鶴が彼の行動を問いただした事もあった。
稀有な事だが、少々取り乱した美鶴に対し彼は――

「クラブで破戒僧と話していた」

と素直に答え、メンバー総出で確認を取った所それに間違いなく、またアルコール類にも一切手を出していなかった事から不問とされた。
ただ、見回りの教師や警邏中の警察官に見つかると、彼自身の経歴に傷がつくと、夜分遅くまでの外出はやめろと美鶴は忠告したのだが――彼は首を縦に振らず。
ただいつもの表情――つまりは無表情――のまま。

「無達の話は、面白いんだ。それは、経歴なんてものとは……比べ物にならない」

とだけ答え、破戒僧が美鶴の嫉妬を軽く買ったがどうにかこれも不問となった。
美鶴の部屋の最上級羽毛枕が一個全損した事だけ報告。

「いや、あの上目遣いで言われたら、俺でも危ないかもしれない」
その様子を見ていたホモ彦こと後ろの防御はからっきしだぜ! なボクサーは後に仲間にそう語ったという。
お前だから危ないんだよ。と仲間達が心の中で思ったのは、割愛。

そしてこの一件が不問とされ、彼が生徒会にも大いに馴染んだ頃。
仲間達は彼の謎多き人物像の一片を紐解いた。

――どうやら彼は、結構面倒見がいいらしい――

そんな風に。

《特別課外活動部の、そんなお話。》
P3二次創作SS

OK、桜。落ち着こうぜ。
そう、そうだ。まず落ち着け。
深呼吸、そうさ、まず深呼吸さ。
ひっひっふー、ひっひっふー。
お約束のボケだなおい!!

さて、佐倉桜という少年は、実は完璧などではない。
お世話になっていた家では、成績を落せば即小遣いダウンという高校生の財政事情としてはそりゃねぇよってなモンだったから暇さえあれば予習復習の日々だった。
そして得た小遣いは主に触手系エロゲーに消えていたのはどうでもいい話。

それなりに外見が整っているのは、これはもう居ない両親に感謝。
服装のセンスはコミケットやらイベント会場で「あぁはなりたくないな……」という強い強い強いマックスハートな誓いから。
そしてイベントでは勿論触手系同人誌やらゲームだけ買い込んでいたのはどうでもいい話。

何があっても動じない強い胆力は、襖一枚隔てた畳六畳半の部屋でエロゲーをプレイする事で培われた。
ひやひやだったさ。イヤホンから声漏れてないかビクビクだったさ。
いきなり襖開いたらとか想像しただけでコップ一杯分弾けたさ。
自分がドMだと気付いたのも、この頃だったと彼は親しい友人に後々語ったと言う。

また無口である事や、ポーカーフェイスである事、仕草の一つ一つが妙に艶かしいこと等が、『いかにも』という印象を人に与えてしまう。
口や表情には出さないが、心の中ではもう一杯一杯あっぷあっぷだと言うのに。

そんな駄目人間真っ盛りつーか特盛おしんこう味噌汁タマゴ付きな彼の周辺は、転校とともにがらりと変化した。
尊敬されているのだ、どうにも。
前の学校では高校生ながらにスーツを着こんで触手ゲーやら○姫陵辱を買い漁る彼は侮蔑の対象でしかなかった。
一部心無い人間達からは「触手キング」とまで呼ばれていたのだ。
転校の日、女子達から半分笑われながら背中に投げつけられた触手キング認定書は今もポケットに入っている。
初めて女の子から貰ったプレゼントだから。
『汝、此処に答えを得たり』
とかキラキラ光りながら降ってきたカードに言われた時には、マジ泣きそうになっていたが。

幸い此方に来てからは、ネット環境も整った事で触手ゲーは通販で。
闘○陵辱は某古本屋の老夫妻をオレオレ詐欺的に騙しながら購入している。
アンソロ系って以外に早く出回るよね、古本屋にさ。

そんな彼が、そんな全宇宙逆ナイスガイコンテスト優勝候補筆頭な彼が、尊敬の眼差しを受けるのだ。
これはもう、彼からしたら何かのドッキリとしか思えない。
しかも尊敬してくる人間。
これがまた凄い。

生徒会のまぁそこそこ風貌の整った風紀委員長小田桐。
眼鏡と仕草が可愛い生徒会会計伏見。
クラスメートで高校級のアスリートとしてはそこそこ有名な宮本に、オサレで年上スキーな今ちょっとブレイクハート真っ最中の友近。
所属する水泳部のマネージャーで、健康的な褐色のお肌が艶かしいんだけど一度もスク水姿を見せてくれない西脇。
フランスから来たというどこか剣使い仮面ライダーを思い出させるべべ。
ファッションセンスはまぁ兎も角、医学に明るく高い芸術センスを誇る平賀。
最近相談に乗って欲しいと話しかけてきたタルタロス攻略仲間の腰に服を巻く女ゆかり。
お弁当食べて欲しいとか言ってきた殺人料理免許皆伝の地味派手風花。
ハイレグアーマーと言ったらこの人美鶴。
最後の方なんか可笑しかったけど、学園だけでもこれである。
さらに外には神木やら無達とか社長だったり超高校級早瀬なんて。
月光館学園おかしくねぇ? なぁおかしくねぇ?

一騎当千の猛者揃いである。
一騎駆け上等の兵(つわもの)だらけである。

自然、一歩退いてしまう。
あまりに華やかで、彼らが強く美しいから。
しかし彼は其処に留まった。
自分の奇異な行動で、今まで他人から避けられてきたのは仕方ない。
だけど、知ってしまった。
此処で、此処の喧騒の中で、彼は知ってしまった。

人と話をする事、出会うこと、それは楽しい事だから。
別れはいつか来るだろうし、覚悟はしても……やっぱり悲しむのだろうけれど。

「佐倉君……ちょっと、いいかな?」

その縋る手を、振り解けない。
その眼差しを、振り切れない。

「という訳で」
「……」
「ご飯、作ってみたの」

みたの、と可愛らしく微笑む彼女だが、桜は此処に来た事を本気で後悔した。
殺人料理研究科の権威、風花さんですよ? 殺食倶楽部会長、生かす事は出来ぬが殺す事なら任せておけの風花さんですよ?
口にした瞬間猫もまっしぐらに逃げる殺戮虐待兵器量産工場工場長風花さんですよ?

ちょっといいかな? の後、こくんと頷いた彼をペルソナ能力値成長率0の風花さんは寮三階まで速攻で引っ張って部屋に軽く拉致。
鍵を閉めた瞬間ペルソナ『ユノ』を召喚して周囲に生命反応が自分達の二つしか無い事を確認した上で、彼女は料理を出してきた。
ユノの腹部辺りから。
この時点で桜はすでに半分腰が浮いていた訳だが、逃亡コマンドをプッシュプッシュしたら二回くらい回り込まれた。
装備中のルシファーとかサタンも汗マークが頭部に明滅中。
怖がってるらしい。

「でね、今日のご飯は、多分大丈夫だと思うの」
おにぎりでの一件以来、それなりに自信を得たようだが、これは明らかに悪い方向である。
すくなくとも拉致監禁はいくねぇよ? いくねぇよなこの奇抜服!?
桜の心の絶叫は、当然風花の何か焦りきった心を解きほぐ「はい、どうぞ」す訳も無く軽ーく無視された。かるーく。
桜がまるで恋人を人質に取られ、これから悪漢共に守り続けた純血を捧げねばならない毎回同じ事してる進歩の無い同人エロマンガヒロインのような何処か諦めきった顔で備え付けの箸を手にした時――神は彼に救いを与えた!

夜の静寂を切り裂く音。
影さえ残さぬ瞬間の絶技。
音さえ後に引き連れて、割れる硝子。
絶望が支配する不退転料理公爵風花の部屋に転がり込む影。影!!
破壊の余韻か。新たな主人を迎え入れる為の準備か。
部屋をともす電灯という電灯が一つ一つ、また一つ明滅を繰り返し、そして夜にゆっくりと侵食される。
光は、ただ役目を終えた窓から差し込む月明かりと、それを反射し取り込む硝子の破片のみ。
それらの幻想的な白光に照らされながら――月を従えた獣はゆらりと立ち上がった。
まるで新たな神話の誕生の様に。
まるで創世の地に立つ始まりの生命の様に。

「死ねこのい○ご100%であります」

裂     大
   ○<アイギス
!  △  炸

図解するとこんな感じ。
ほら、バトル漫画とかの見開きみたいな?

「何するんですかアイギス!!」
家具が倒壊し無事な場所が一切無い部屋の中で、まったく無傷の風花が吼える。
かみさまは、きっとぼくがきらいなんだ。
桜は隣で何故かかすり傷一つ無い風花に、なんで傷一つないんだよ、とか突っ込む事も忘れて自分の運命を呪った。

「桜さんは私の所有物です。勝手に手を出すのは止めてください」
所有物になった覚えねぇよ!
「アイギス……コミュもない貴方が、この女教皇コミュニティーの主、山岸風花に楯突こうなんて……片腹痛いわ」
コミュがあってもあの扱いじゃ意味ねぇけどな!

とりあえずロケットパンチの爆風で飛んできた結構分厚い本で頭部をしたたかに打った彼は脱出を試みる。
が、抜けた腰ではそれもかなわず、ただあとは時間の経過と無血開城を祈るのみ。
そんな極々普通の駄目人間に、神は再度救いを与えられた!

「ちょっと、桜君と一緒に遊びに行った時用のお弁当とかの材料買って今戻ってきたんだけど今の音何――桜君!?」

OK、神マジ氏ね。
桜は天に向かって中指をおったてた。

自分の立場と状況を説明しながら部屋に入ってくるという荒技つか手抜きをかましたゆかりは、びっくらこいて腰が抜けきった桜を見て目を見開いた。
「桜君……腰が抜けるほどやったの!?」
そういう発想に到るからお前は汚れ役なんだよ。
やってねぇよ、まだ清い体だよ、健全だよ。
「しかもこの部屋……どんなプレイしたの!? したの! ねぇ!? 私こんなの――壊れちゃうよ……」
モジモジいやんいやんですか、くねくねアハンですか。そうですか。

「またターゲットが増えたようですね……」
「ゆかりちゃん……来世で、友達になろうね」
「ロック、私のマグナム持ってきな」

誰だロック。
お前らあれだよな、結局自分本位で冷たいよな。全員クールだよな!
つか興味津々かよ。自分もそのプレイ所望かよ。

三匹の修羅が月明かりに照らされて踊り狂う。
離れて寄って飛び退いて。
鋼火薬火花弦音悲鳴。
破壊倒壊瓦解殲滅破滅血の赤オイルの黒弾ける薬莢空を切る矢舞い散る包丁生贄を放置で執行人は飛び回り月光は無言を以って答えとし魂の循環を無慈悲に見守る。

餓鬼共の共食い絵図にも似たそれを見ながら、桜の脳裏に、かつて無達と過ごしたクラブでの日々が鮮明に甦る。
『おう、昨日貸して貰ったあれ、やったぜ。いや、いい触手だったな……こう、ぬめっとして、それでいて生きて……あぁ、あの触手は生きていた』
強面で、どこか愛嬌のあったあの目。

神木と共に語った、あの日々を思い出す。
『あぁ……あの文体はよかった……そうだね、特に345ページの六行目、魔砲天使カノンの「はにゃーん! 孕んじゃう! 孕んじゃうのぉおーッ!!」の部分は凄かったよ……正直、もっと生きたくなったかな……』
生きる意味を見つけたという、力強い瞳。

田中から教えられた人生哲学が、色を取り戻す。
『いい、エロゲーのテキストで大事なのは、下手に男の台詞を出さない事と女に状況説明的な台詞を言わせない事よ?』
爛々と、強く輝く目と言葉。

絶望の中で、もう終わりしかないと言うこの状況下で、それは彼に力を授けた!
『おぉ……! まさかこのカードを目にする日がこようとは……!』
何処から湧いたイゴール。
キラキラと輝くカードが、桜に宿る!

『触手』

どうしろと!?
『ホント初めて見ましたな。えぇマジで』
『ですね』

とりあえず、数分後……桜ベルベットルーム直行。
胃に穴があいたんだって。へー。

「おや、お早いお帰りですな?」
「今度はどんな死に様ですか?」

あぁ、俺の平穏は此処しかないのか……
真っ赤な真っ赤な苺タルトを頬張りながら、桜はうな垂れる。
「でしたら……ずっと此処に居たらどうですか?」
「……?」
そっと紅茶のおかわりを差し出すエリザベスの目を見ても、エリザベスはもう目を逸らした後。
其処にどんな感情があるかは分からないが、少し赤い頬を見れば――

「桜君! お弁当できたの! 今度は大丈夫だから! 完全密室用意したから!」
平穏はもう此処にすらないのだろう。
だから、お前も此処知らないだろ。
あと完全密室用意とかどうなんだと。



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ども、RTTです。
なんか5万レビュー記念するとか言ってたんすけど、気がつくと――
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とまぁ、すでに6万いってまして。
記念は十万まで置いときます。

SS
なんかペルソナ3SSとか書いてますけど、ちゃんとシキサイも書いてます。
うい。
あぁあと、シキサイで思い出した。
riyuさん、毎度誤字チェックありがとうっす、と。
いやもう、メールの返事出すのも億劫で。
あぁー……もう、なんだ。
な?