――時計が回る。
クルクル回る。
チクタク回る。
白銀の時針だけを置いてけぼりに、他の針だけチクタク回る――
永遠に昇り続ける四角い箱。
翼を切られた小鳥が、たださえずる事を許された小さな籠。
滅びが来るその時まで、意味を持たない懺悔の檻。
それは――
「おや……お客人。今日はどの様な御用で?」
ベルベットルームと呼ばれる、黒と青に彩られた無機質の庭園。
《プラチナ》
P3二次創作SS
「確かに。マハラギを持つヴェータラですね……」
イゴールの対面で、ただただ無表情なまま椅子に座り、出された紅茶を飲む少年に、エリザベスはそう言った。
それを少年――佐倉桜――は、常のまま頷く。
「では、報酬としてお菓子の鍵をお渡し――」
桜の眉が、少しだけ動く。
そしてそれを見たエリザベスは、あぁやはり、と誰にも聞こえないほど小さく呟いた後――
ため息と共に、「したいのですが」と吐き出した。
刹那、桜の腰が椅子から離れ――
「どういう、事だ……!?」
彼は、彼を良く知る人物なら驚愕するほど凶暴な表情でイゴールの鼻を掴んだ。
「何故私が!? え、エリザベス!!」
「実はお菓子の鍵は紛失してしまったのでございます」
「無視か!?」
「なん……だって……!?」
「痛ッ! 鼻を強く掴むのは……! もっとこう、マイサンを持つ時のような母性溢れる優しさで!
え、エリザベス!!」
「そこのアルカナ「鼻」所属、ペルソナ名お茶○水博士が……」
「この野郎!!」
じゅうまーんばりきーだー
「私の鼻を卑猥な持ち方で上下左右縦横無尽に!? え、エリザベス! エリザベス!!
というか私の名前が何か御大の漫画に出てくる鼻のでかい――」
「分かりました」
むぎゅ
「誰が鼻を卑猥な掴み方で握れと!? あ、だ、駄目……! 駄目! 其処は――あ、あぁああああああああああああああッ!!」
ビクンビクン跳ねながら、エロ同人誌とかで集団に暴行された後廃屋に捨てられた女性の様な、目にハイライトねぇ無表情さで横たわるイゴール。
かなーり昔の大晦日辺りに白いマットのジャングルでぐったり眠る元横綱思い出すのは、なんでだろうな。
「で、なんで……ないんだ?」
「あのボケ老人が三時のおやつと間違えてしまって……」
「このギル○ア博士!!」
ふきすさぶかぜがー
「い――いやぁああああ!! もうやめてぇえええええええええ!!」
ベルベットルームに目玉の親父の悲しい悲鳴が木霊した。
ほんと毎回同じだって分かってるのに、なんで買っちゃうんだろうな、あれ。
■■■
楽しみにしていた。
お菓子の鍵で作れるだろう新たなペルソナを、楽しみにしていた。
そのためだけに、この数日ずっとタルタロスを走り続け、探索し続け、岳羽と二人っきりの買い物を眼鏡に見られて学校で夕焼けに染まる廊下とか月の光が無い夜道とかで包丁がきらめいてあなたの知らない世界一人で見てた時よりビビってた僕勇気MAX。
「大丈夫ですか?」
人の思考を読むのはどうだろう。
「私は人ではありませんので」
そうだね。明らかに人外っぺぇよね。その胸とk
『その日、地球は核の炎に包まれた』
本気メギドラオンが世界にちょっと早い終末を運んできました。
で、さっきのギ○ン=ザビ何?
「と、言うわけで」
「……」
「失われたお菓子の鍵に代わり、私が今日一日貴方の奴隷となります」
よろしくお願いいたしますとかお辞儀する暇あるならお菓子の鍵に代わるもん探して持って来いこの破壊魔。
「私の体では満足できないと!?」
戦闘グラフィック確認する限り、アリス並に慎ましいエレベーターガールなんか用は無い。
「私をその程度の女と認識されては、困ります」
何故か腕を組んで一緒にポロニアンモールを歩くエリザベスが、ふふんと不敵に笑う。
野蛮な筈のそんな顔も、何故かちょっと上品。
因みに腕に当たる感触はなんか(´・ω・`)って感じd
『その日、地球は核の炎に包まれた』
本気メギドラオンがまた世界にちょっと早い終末を運んできました。
で、さっきのかぼちゃワ○ンに出てくる教諭何?
「私はただエレベーターに乗せられながら階数を告知したりお客様の希望する階を聞くだけの怠惰な女ではございません」
刺されてしまえ。現役の人に。
「私はお客様に乗せられたり何回絶頂に達したか告知したりお客様の希望する体位を聞いたりする女でございます。桜色のボタンも押しますよええ、そりゃもうええ」
よし、刺されて来い。俺の代わりに眼鏡に刺されて来い。
「冗談ですよ?」
真顔で言うな。
「私は、貴方だけの肉奴隷ですので……あぁ、思い出します。初めて出会った日、貴方が私に施した甘美な隷属の刻印――ッ!!」
桜色に染まった頬を隠そうともせず、エリザベスが感極まったような声でハァハァ言いながらくねくねくねくねくねくねブーメランブーメランギャランドゥ。
あれ? あのおばちゃん交番に走っていったよ? あれ、黒沢さんなんで拳銃抜いてr
ぎゃあ! 撃ってきたよあの人!? この法治国家日本で拳銃発砲してきたよ!?
この平和な惰眠国家NIPPONNでチャカウッテキタヨ!! 夜警国家も真っ青だよ懲戒免職されしまえこの横領横流し警官!!
「あらあら、困りましたね」
おーまーえーのーせーいーだー!!
ぴっとりくっ付いて腕を放してくれないエリザベスを嫌々引っ張って、刈り取る者に追われた時も眼鏡に追われた時もこんな真剣に走った事ねぇよって位マジ逃走したそんな昼でしたはい。僕水泳部なんですけどね!!
「刈り取る者と同列なんですか……眼鏡と言うのは」
そりゃもう!!
酸欠で頭が真っ白になる瞬間まで走り続けて、気がつくとそこは巌戸台駅前。
俺は線路を走ってきたのか……?
ぜーはー。
ぜーはーぜーはー……。
だらしないが、しゃがみこんだまま息を整える……
マジ辛い……マジきつい……
それなのに……
「ひっひっふー、ひっひっふー」
余裕ですねエリザベスさん!!
「はい、孕まされた時の為に、こういった練習も必要かと」
エリザベス自重しろ。
「産む時は、勿論父親の義務としてDVDで録画して下さいね?」
よし、撲殺丸準備OK。ガキさん、僕に力をッ!! って真夏日にニット帽とかロングコートとかありえねぇよ!!
「いきなり鈍器を地面に叩きつけて、どうされたのですか?」
なんでもねぇ……ちょっともう一発鉛玉ぶちこみたくなっただけだ。
「そうですか……まぁ、攻め役ホモの事は兎も角。産後の床ではそれを見ながら燃え上がるといたしましょう」
ガキさんを攻め役とか言うな! あれで結構受け上手なんだぞ☆ 受け上手なんだぞ☆
じゃねぇ!!
つかそんな特殊プレイやだよ!!
……
や、やだよ? うん、やだからね?
「うふふふふ……」
何故かこちらを見透かしたような微笑が、とてもとても心に突き刺さりました。
なんだろう、この負けた気分?
組んだ腕を引っ張って、エリザベスが歩いていく。
どこに行く気だ……
「ここには、美味しい『らーめん』と言う物を食べさせてくれる場所があると聞きました」
つまり奢れと?
「割り勘でどうでしょう?」
ふむ。
「貴方が10で私が0。理想的な割り勘かと」
割り勘じゃねぇよそれ!!
「あら……では、女性に奢らせると?」
いや、半分とかどうなんだろう? つか、普通はそれ。
「まぁ、それでも構いません。さぁ、行きましょう」
道も知らないくせに、エリザベスがさきさき歩いていく。
腕を組んだままの自分は、当然されるがままに引っ張られて。
イニシアチブは彼女に。従う事は自分に。
それなのに。
なんだろう、この妙な……安心感みたいな物は。
「ドMだからではないですか?」
ちげーますよ!! ドMだけどちげーますよ!!
とりあえず今度はちゃんとモノレールでポロニアンモールに戻る。
うん、なんか一時間ほど発車時刻が狂ってたり遅れてたりそんなのボクシラナイヨ。
あと発砲事件があったとか警察官が警察官押さえつけるシーンとかあって捕り物劇見ながら『ぷっ』って笑ったらまた暴れだしてより一層逮捕シーン過激になったとかボクシラナイヨ。
あ、なんかマイク持ったおねーさんとかテレビカメラ持ったお兄さん達だ。
明日のニュースが楽しみだぜうへへへへへ。
ウヘ。
面白可笑しい愉快な痛快リアル活劇から数分後、俺と俺を引っ張るエリザベスは、ポロニアンモールをそ知らぬ顔でぶらぶらしていた。
「あら、あれはなんでしょう?」
何か見つけたらしく、立ち止まって指をさす。
その先に目をやれば――よく一人で歌ったカラオケ屋。
「……」
何その目?
「いえ……その、頑張って下さいね?」
何その可哀想な子を見る様な目?
「蔑んだ方が燃えると言う事ですね?」
よし、レジェンドクラブ準備OK。肉彦、僕に力をッ!! ってホモになっちまうよ!!
「いきなりボクシングクラブを地面に叩きつけて、どうされたのですか?」
なんでもねぇ……ちょっとプロテインにブフダインかましたくなっただけだ。
「……大丈夫ですか?」
お前よりよっぽど大丈夫だよ!!
「この間購入された淫妖蟲〜○〜は面白かったですか?」
すいませんごめんなさいあのク○ゲーは前作共々たんすの奥に封印してます勘弁してくださいエリザベスさんあ、なんならかばん持ちましょうか?
いひひひ。
イヒ。
「では今度は私の自作触手ゲーでもどうでしょう? 勿論声も私が担当していますが……」
エリザベス自重しろ。
……
いや、欲しいとか思わなかったよ?
オモワナカタヨ? オモワナカタヨポク?
「なんですか……その中国人的イントネーションな日本語は?」
心の病です。患っておるのです……心と言う不可視の心臓を。
「なるほどなー」
納得するな。あとパチんな、同じ人外枠だからって。
「あぁ、また何か知らない物が……人の世界は、本当に流れが早いですね……」
無視ですか。
「あら、あれは?」
伏見と行った漫画喫茶。
「ではあれは?」
勉強がてら足を運ぶ定食屋わかつ。
「なるほど……では――」
たこ焼き屋、自販機、猫と子供、置き物、歩く歩く、もう見飽きた通学路、荒垣先輩に出会った裏路地、リストラされたサラリーマン、歩く痛い、岳羽に笑われた花屋、伊織や真田先輩、天田とだべった喫茶店、桐条先輩が初めて入ったジャンクフード店、回る回る、べべと良く通った甘味処、無達がいたクラブ、コロマルとアイギスと一緒に散歩した坂道、回る痛い、山岸と行った老夫妻の営む古本屋、舞子や神木と共に過ごした神社、痛い痛い、いたいいたい、イタイイタイ――
■■■
いつしか、青かった空は赤に。
ランドセルを背負った子供達が、坂道を転がりそうな勢いで走っていく。
一瞬の喧騒。過ぎ行く車のエンジン音の様に、それは遠くへと。静寂は近くへと。
人は還るべき場所に。時は進むがままに針を置き、秒針は電池がなくなる瞬間まで回り続け。
そして俺達は――
「綺麗な景色ですね……」
学校の、屋上。
俺はベンチに座って。彼女は柵に手を絡めて。
風に梳かされ、肩までしかない彼女の髪が紅いだけの世界に白銀を与える。
プラチナ。
彼女が、好きだといった貴重石。
「まるで無理やり処女を奪われた後膣内から出てきたピンク色のコン○ームの様な色です……」
どんな色ですか? それどんな色ですか?
「見たいですか?」
何その口に咥えてる四角い小さなビニール袋? なにこの桃色空気?
「……性病持ちですか?」
ベルベットルームに帰れ。
「仮性ですか?」
……
「……」
違うよ? 違うよ?
「今日は、有難う御座いました。聞いた事や、蜃気楼の様に見た事はあったのですが……やはり実際に見るのは、興味深いですね」
信じてねぇなこの雌豹。
「分かっています。今日は、わがままをした……と」
……今更何を。
「うふふふふ……」
賢明な彼女だ。そんな事、とうに分かっていただろう。
「依頼の報酬と言っておきながら、自分だけが楽しむなんて……賢明とは、言えません」
自嘲しながら首を振る彼女。
「私一人では、外に出る事は叶いません……でも、ベルベットルームに招かれた貴方なら……今までの誰よりも強く輝く貴方と一緒なら……外に出られると、そう思いました」
まぁ、貴方以前の方とは面識はありませんが。
そう、呟く。
自らに向けたその嘲笑が、寂しそうな顔だと。
悲しい顔だと、胸がまた痛くなる。
だから。
「そんな事……なかった」
「え……?」
俺だって、楽しかった。
多分、楽しかった。
楽しかったから……楽しかった分だけ――
「悲しい……ですか?」
頷く。ただ、素直に。
喧騒だった。学生寮の皆と一緒に居る時くらい、騒がしくて。
馬鹿馬鹿しくて、突っ込んでばかりで、走ってばっかりで、振り返る暇も無くて。
でも、だから。
彼女が質問するたび、それに答えて、それを記憶しようと目に焼き付けているのを見て――
悲しかった。
時計の秒針。
中に取り込んだ電池が無くなる瞬間まで、時を刻む針。
それが俺達だとするなら、彼女は。
「鈍く動く、時針でしょうか……?」
ここに在る世界で、忙しなく、絶え間なく動くこの生。
ここに無い世界で、ただ僅かに揺れ動く彼女の生。
ベルベットルームと言う、暗く青い檻は。
彼女に、知る事を、見る事を、聞く事を、生きる事を制限する。
永い生の対価に、それが与えられたと言うのなら。
それは……どんな代償であっても……辛すぎる。
「貴方が、悲しむようなことではありません」
赤から黒へと変わりつつある空をそっと見上げて、彼女はさえずる。
そうだろうか……悲しむ必要は、無いのだろうか……?
「苦痛の押し売りはやめて頂きたいものですね」
強い口調。棘を含む声。
でも、だけど――
「動かない時針だからこそ、動いた時に意味があるのです」
空を見上げていた筈の双眸は、俺の瞳に。
穏やかに微笑んでいた顔は、透き通った静謐に。
月が朧に。赤は徐々に黒に。
「秒針が、分針がこの身を幾度も過ぎた後、時針は僅かに、それこそ呆れるほど小さな一歩を刻むでしょう。でも、それが――」
それが?
「悲しい事だとは、思いません」
どうして……?
「秒針は、時に笑いながらこの身を過ぎていくでしょう。分針は、時に泣きながらこの身を過ぎていくでしょう」
いつもいつも、楽しい事や嬉しい事ばかりじゃない。
そんな、優しい世界じゃない。
そんな穏やかな世界じゃ、ない。
「私は、走り行く、歩き行く彼らを見送って……そっと一歩踏み出すでしょう。その先に、過ぎていった彼らの残した『想い』や『カタチ』を見つめながら」
なんで……
「私は、それを閲覧出来るのです。彼らが振り返る事なく進み逝き、忙しなく歩いたその、通過地点に落としていったそれらを、手に取る事が――見つめる事が、出来るのです」
なんで……
「落し物は、綺麗な物ばかりではないでしょう。時に、呆れる事もあるでしょう」
君は……
「緩やかな歩みの中で、それに失望し、希望を持ち、過ぎ逝ったそれらの悪夢と笑顔の結晶を」
なんで……君は……
「私は、こうやって今……ゆっくりと、ゆっくりと……見つめる事が、出来るのです」
そんな、綺麗な……優しい、気高い笑顔で……
「だから、有難うございます」
微笑む事が、出来るのだろう……
「世界にとって、今までの過程で生み出された悪夢が、タルタロスにやがて来る絶対の破滅であるのなら」
金の瞳が、優しく濡れる。
雨の日に、そっと濡れた独りぼっちの満月の様に。
何故かぼやけた、不鮮明な視界。熱い双眸。
「私にとって、今までの過程で生み出された笑顔は――」
濡れた頬に、エリザベスの両手が伸びる。
そっと優しく、手袋越しに挟まれて。
「ここで泣いている、優しい貴方なのです」
二つの涙が、そっと重なった。
「今日、この時、この想い――私はきっと忘れないでしょう……このまま、消える時まで……ずっと」
風が、吹いた。
一陣の風が、冷たい屋上を薙いで――青色が――
真っ暗な空。落とされたインクのような、滲んだ月。
溶ける様に消えた彼女。
もうここに居ない彼女。
青い、白銀の、金色な彼女。
彼女は、消えてしまったから。
泣き続けた。
泣いて泣いて、屋上がタルタロスに飲み込まれるまで。
涙が止まらないから、泣き続けた。
■■■
あれから数日が過ぎた。
あの夜から、もう数日も過ぎてしまった……
「はぁ……」
何かの間違いだと、ベルベットルームに足を運んだ事もある。
何度も、何度も。
だけど、そこに彼女の姿は無く。
『さて……それは私にもわかりませぬ……』
途方に暮れたイゴールと、何度も何度も足を運ぶ自分。
不毛な不毛な時間達。
「はぁ……」
彼女は、消えてしまった……
「はぁ……」
「なぁ、ゆかりっち」
「その呼び方やめてって言ったでしょ?」
「まぁまぁ、んで……どしたん桜?」
「ん……ここ数日ずっとあの調子、としか……」
「俺と同じ程度……って事な。どうしたもんか」
「心配であります……」
タルタロスの頂上を目指して、ただ飽きるほどに走り続け、ただ空っぽになるまで戦い続けた。
登れる所まで登り続け、そして影時間を後にする。
いつもの事。今までずっと、もう一人の自分を武器として携えたあの時から。
ずっと続けてきた事。
出会いも、別れも。
嫌と言うほど経験してきた事なのに――足が重い。
愛用の一振りも、その鋭さも輝きも失い、その精彩を欠いた。
だから、そんな失態を招く。
『リーダー! し、死神からの奇襲です!!』
刈り取る者。
銃と言う鎌を振り抱く、タルタロスの抗体機能。
入り込んだ異物を排除する、純潔の殺戮人形。
気をつけて! そんな言葉が鼓膜に響く。
意味もない事だ、そんな物。
気をつけても何も無い。
敵の携えた武器は、今俺の目の前に。
初めて笑顔を見た時、それまでの印象が消し飛んだ。
どこか彫像めいた生き物だと、敬遠していた。
でも――
振り下ろされる殺意の塊。
くすんだ光を放つ鈍色の鎌。
刈り取る物が大地に蒔かれた種から息吹いた命であるなら、人がその鎌に狩られる事に何の不都合があるだろう?
風が薙ぐ。火薬の音と共に放たれた、獰猛な鉛の牙。
走り出した銃弾と言う獣の足は、決して止まらない。
この身を食いちぎる、その時まで。
目を閉じる。
そうすれば、希望に触れる事が出来ると信じて。
でも。
だけど。
あの時君は、笑顔だった。
最後に。
最後に、あんな笑顔で見送られるなら。
悔いは残るけど……いいかも、知れない。
そっと、目を開く。
そこに自らが望んだものは無く。
対として存在する、個に撒き散らす程度でしかない絶望が――なかった。
「ヒーホー!!!」
でっかい雪ダルマが目の前に鎮座しておられました。
何これ?
「あら……貴方があれ程望んだ、依頼の報酬ですのに」
え……?
天蓋に覆われた、見えない筈の空から光が落ちてくる。
終末の予言に記された、終わりの炎が――
タルタロスを震わせた。
「な……なん、だぁ!?」
順平の声。
「ど、どうなったの……?」
ゆかりの声。
「さ、桜さん! 桜さんは無事ですか!?」
アイギスの声。
そして。
「ご無事ですか、お客様?」
数日振りの、屋上以来の――彼女の、声。
「あぁ、その様な顔もなかなか愛らしいですよ、『桜』さん」
にこっと微笑んで、優雅に歩く。
いつも通り。あの頃のまま。
綺麗な、綺麗な笑顔。
って、お前一人じゃあの部屋から出られないとかどうした!?
「……そんな事いいましたでしょうか?」
言ったよ! 依頼とかでも外に出れないとかそんな事言ってたよ! 多分!!
「健忘症ですね……」
何その可哀想な子を見るような目?
「あぁ、蔑まれた方が燃えるんでしたね。これは大変失礼を」
燃 え ね ぇ よ
「ドMのくせに……」
そうなんだけどな! その辺は今度邪魔の無いところでじっくり話し合おうぜ!!
「ホテル街ですか? なるほど、興味深いですね」
桃色天国ですか、貴方の頭の中は。
「ちょ、ちょっと桜くん! この一人で喋ってる人、誰なのよ!?」
まぁ思考回路見えない人にはそう見えるよな。
つかうん、君が正常なんだ。
正常なんだけど、いきなり首絞めるのってどうなの?
息が出来ません。息が出来ません。
「だ、誰だよこの美人!! 桜、紹介しろよ!!」
そうは言うがな大佐。
これ厳密には美『人』じゃねぇんだぞ。
そこで無言のままガラテア反物質砲装填してるアイギスのご同輩で、いわゆる人外――
アイギぃいいいいいいいいいスッ!?
「その物体からは、良くない物を感じます……つまり、危険です!」
そうだね。すげー危険だよね。
「あら……ロボ娘如きが、この私に銃を向ける、と?」
何処から取り出したのか、手にはいつもの本を。
いわゆる刀を鞘から抜いたって奴ですねこりゃ。
……
本気メギドラオンっすか!?
つかそっくりだよこの人外娘共。
訳わかんねー言動に振り回されて突っ伏した瞬間力押しで無理やり自分の土俵に持ち込むところとか!!
ジオダイン>七転び八起きであります>ジオダイン>七転び八起きであります>待機>デッドエンド>回避>ジオダイン>アイギス沈黙
アイギス馬鹿じゃないの……?
……
ってか、アイギス馬鹿じゃないの?
そしてこの結果に驚く仲間達。
まぁ、先輩コンビ別にすれば、アイギスは最強のカードだからなぁ。
物理オンリーだけど。
「おわー!? あ、アイギスが負けたー!?」
お前どこの超人レスラーだ。
「あ、アイギスの中にある超小型核融合炉がー!?」
そんな危なっかしいもんと一緒に俺達は生活してたのか。
ちょっと前に見たバッタ、やっぱ足八本であってたんだな……あの時は目の錯覚だと思ってたのに……
で。
気絶したアイギスとか最強トライアングルの一角が崩壊した事でビビって隅っこに逃げた二人は放っておいて。
これ、何?
目の前に鎮座まします存在感たっぷりな雪だるまを指差してエリザベスにアイコンタクト。
「お菓子の鍵で創造可能なのが、このキングフロストですが何か?」
このロールヘアーがか!?
「ヒーホー!」
よし、アポカリプス準備OK。順平、僕に力――ってお手上げ侍なんてだが断るッ!!
「今回は早くに叩きつけましたね」
いやもう、マジ勘弁でしたから。
全パラ+10もなんのそのですよ。
「お、お前! 俺なんてまだ模造刀なのに自分だけ何いい武器持ってんだよ!?」
「欲しかったら、ここまで拾いに来い」
「や……それは無理」
ヘタレめ。
「貴方の言えた事ではないと思いますが……」
しかし……
目の前の雪だるまを、じっと見つめる。
こんなもんの為に、俺はあの苦しく長い日々を送ったのか……?
こんな雪だるまの為に、眼鏡の包丁に脅えたのか?
「後者は自業自得です」
だからって普通包丁はないだろ、包丁は。
視覚的にはガトリング砲なんか目じゃねぇぜ! ってな位怖いんだぞあれ。
「あまりこのペルソナを邪険に扱わないで欲しいのですが……」
とは、言われても……
「この数日、世界中を駆けずり回って駆けずり回って、やっと見つけた特製嘔吐剤で戻ってきたお菓子の鍵で呼び出したペルソナなのですから……」
おし、持って帰れ。目玉の親父の胃液まみれで作ったこれ持って帰れ。
「そんな……もてあそぶだけもてあそんで、飽きたら捨てるというのですか!?」
待て。岳羽まずその遠距離から弓構えるのやめろ。
ほら、的どこにもないっしょ? ないよね?
アイギス、寝てていいよ? うん、ずっと寝てていいから。
オルギアモード? あぁ、そういえば初めて見るねそれ☆
あれ、山岸さん何を会長に報告してるのかな?
え、また増えた? ねぇ、何がまた増えたの?
……OK、分かった。
つまりあれだ、これは。
「では、先に戻って待っておりますね。『桜さん』?」
いや、その雪だるま置いていってくれねぇ?
そんな爆弾は置いていかなくていいから。
ほら、盾くらいにはなりそうじゃん? そんなけでかけりゃ。
とりあえず、数分後……桜ベルベットルーム直行。
「おはや……かはッ! い、おか、かはっ! です……おえぇえ……かはっ!」
エリザベスさん、イゴールが喉に異物詰まらせた犬みたいになってます。
何投与したんだお前は。
「ただの嘔吐剤ですが……?」
テーブルの上には、数日振りの紅茶とケーキ。
えづくおっさんの前でこんなもん食えるか。
「そんな嬉しそうな顔で言っても、説得力はありませんよ?」
破滅が奈落の頂上に舞い降りるその時まで、昇り続ける四角い箱。
青と黒で彩られた、うち捨てられた庭園。
時計の針が0を示すその日まで。
時針は回る秒針と分針をただ見守る。
プラチナの腕時計をした、彼女の。
こんな綺麗な笑顔で。
「ところで、今回はどんな死に方でここに?」
オルギアモードって、貫通耐性無いと結構来るね。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
えらい長くなりました、世にも珍しいエリザベスSS。
設定とかもう脳内からもれるまま採用。
オフィシャル設定? いやもう、ごめんなさい。
うん、でもまぁ、なんか自分らしい物が沢山かけました。
長くしたのはどう見ても失敗ですが。
あと、エリザベス。
イマイチ喋り方を把握できず。
まぁ、この形で固まりそうですが。