月光館学園の廊下を、少年が歩く。
佐倉 桜。
タルタロスアタックチームリーダーであり、多彩なペルソナを扱う、この地域のペルソナ使いとしては稀有な存在。
24時間から零れ落ちた1時間。
それが世界に影を落すまで、ペルソナを宿す彼もただの少年に過ぎない。
月光館学園の廊下を、桜が歩く。
階段を降りて、廊下を曲がり『部室』の扉に手を伸ばす。
さて、今日はメンバー揃ってるかな?
日常らしい平穏な思考。
そして彼は扉を開けて。
「あら、ごきげんよう。桜さん」
非日常と直面した。
《コミュこみゅ?》
P3二次創作SS
管弦楽部の部室に、エリザベスさんがおられました、まる
まるじゃなかとですたい。
「お里の言葉ですか?」
はい、いいえ。自分は東京ディ○ニーランドで有名な千葉出身です。
甲子園は大阪ではないのです。
ないのです、じゃねぇよ! なんでお前がここに居るんだよ!?
「何故、と言われましても……」
そ、そうか……これは夢だな? 夢だよな?
「ほら、夢ではございませんでしょう?」
いきなり人の頬をつまむな!
「では」
いきなり人の頬を撫でるな!
あぁそうじゃない、そうじゃなくて!
このご時世にシャツをズボンにINする姿も誉れ高い平賀部長はどこに!?
「いえ、あの童顔タレ目童貞と無理やり変わって頂きました」
平賀部長ーーーーーーーーーー!!
「今頃エレベーターガール姿でベルベットルームに呆然とつっ立っている事でしょう。くくッ……」
病院のボンボンーーーーーーーー!!
つか最後の苦笑なんだこのドSエレガ。エレベーターガールでエレガな。エレガントのエレガじゃないからね?
「今の私はエレガではございません。月光館学園管弦楽部部長、エリザベスでござます」
……はぁ?
それ、どーゆー事でしょう?
「……」
それまでとは打って変わって、突如暗い顔をして俯くエリザベス。
いや……別に、話したくないなら……
「いえ、桜さんには……聞いて欲しいのです……」
……分かった。
俺で、いいなら。
「実は……」
実は……?
「暇だったので運命コミュでも乗っ取てみようかと」
『みようかと』じゃねぇだろ。
「やれやれですね……その程度の突っ込みだなんて。がっかりです。ションボリです。もう死んでいいですよ桜さん?」
なんで俺がそこまでこき下ろされてるんだこのドS。
「貴方から突っ込みを取ったら、もうドMと触手ゲーマーと言う比較的――絶望的に最悪な人間性しか残らないというのに」
お前マジ帰れ。
「部長にそんな口を聞くだなんて、駄目な部員でございますね」
部内の身分をカースト制かなんかと間違ってるのかお前は。
「あれ、佐倉君今日は来てるんだ?」
と、横からひょっこり出てくるブーメランと殺人料理を融合させた風雲拳継承者山岸風花。
今日も背中のブーメランが眩しいな。
「え……・? 背中? 何もないよ?」
そうか? なんか薄ボンヤリした猫とか犬とかが――
……
あぁ、そうか……ごめん、それ『犠牲者』か……そっか。
「あ、部長。おはようございます」
「おはようございます、山岸様。今日も沢山憑かれておりますね」
「え、疲れてなんかいませんよ?」
目の前では実に平穏な平穏な不穏当な社交辞令とか挨拶とかボケ。
あれ、なんで……?
「山岸……?」
「なに、桜君?」
いや、その……
「エリザベスの事、知って……るの?」
きょとんとした顔の山岸。
「知ってるも何も……エリザベス部長でしょう? あ……うん、でも、その……」
なにやら突然もごもご口を閉ざしたり開いたりする山岸。
……
山岸の横で実に面白そうな顔で微笑むエリザベスを少しだけ引っ張って、部室の隅っこで密談。
何したんだよ、これ?
小声でボソボソと。
「こちらに割り込む際、少々情報――まぁ、ぶっちゃけ設定を弄らせて頂きました」
ぶっちゃけずぎ。
で、少々って……どんな風に弄ったんだよ?
「私は貴方を追って海外からやって来た桜さん専用肉奴隷兼桜さん専用肉布団兼貴方の子を身篭って三ヶ月の妊婦設定でございます」
重いよ! 少々じゃないよ!! そりゃもごもごされちゃうよ!! 言いにくいよ!!
「あ、その、桜君、でも、私別に桜君の事嫌いにならないよ……? その、子供孕んでるんじゃ、仕方ないかな……って」
言い方考えろ山岸。
つかそんな同情するような目で見んな! 見んなよ!!
「ちッ……まだ諦めていない様子ですね……この腐女子」
なんか隣から聞こえたけどスルー。スルーでいいよね? いいよねッ!?
んで?
「?」
いや、そんな子犬みたいに首傾げられても。
平賀部長まで犠牲にして暇を潰したいエリザベスの心意気はよーく理解出来ないけどお前の人間(?)性で分かったから。
これからどうするのかと、聞いてるんですけどね。
「あぁ、これからの事でございますね。勿論、部活動をいたします」
部活動、ねぇ?
「……なんでございましょう?」
いや……お前、なんか楽器扱えるのか?
「大丈夫でございます。ベリーベリーソースウィートもーまんたいでございます」
何そのグダグダな言語? 外国から来たって設定無理ない? 無理ない?
「エロマンガ島出身ですので、もーまんたいでございます」
もうねぇよその島!!
「エロマンガ島のマン国際空港からやって来ました」
ベルベットルームに帰れ。
「ベッドルームに見えると、誰かが言っておられました」
それエロい人の所の優也君な。
「宣伝乙でございます」
ちん○んが元気になってしまいます。とか拍手で送ってる場合じゃないよな。
じゃねぇよこのエレガ部長。
だから楽器なんか使えんのかって聞いてるんだよ。
「アンアン鳴かせるならお手の物でございます」
俺は楽器扱いか!?
「はい、こう、口で耳を噛みながら左手で頭を撫でつつも右手で桜色の桜さんボタンやら太ももの内側をさわさわと――」
喋るな。それ以上喋るな。
お前もメモ取るな山岸。
「あ、うん……でも、後学の為に……」
後学ってなんだ。
俺の責め方覚えてどうする気だこの雌豹。
……何この寒気?
「「うふふふふふふ」」
いーやー! 部室に突如龍と虎がー!?
とりあえず、僕の平穏返せ、とか思った。
■■■
「という訳で」
エリザベスが手を叩きながら部室の中央に歩いていく。
「部活動を始めるので、集まって下さい蛆虫共」
孤立したいのかお前は。
「まったく、エリザベス先輩は仕方ないなー」
「ふふ、それが部長のいい所じゃない」
部員達が笑顔でエリザベスの下に集まっていく。
お前ら目ぇ覚ませ。
「では早速本番と行きましょうかこの軟弱な童貞&処女共」
お前も目ぇ覚ませ。
「まったく、エリザベス先輩は仕方ないなー」
「ふふ、それが部長のいい所じゃない」
もういいや。
各々が自分の割り振られたパートに散らばり、席に着く。
俺はいつも通りバイオリンのパート席に。
慣れ親しんだ椅子に座って、そっと深呼吸。
もうなんだ、諦めた。無理。流されよう。
すると隣に
「では、私はここに」
エリザベス様降臨。
流されたくねぇ。
……アイコンタクト。
「……そ、そんな」
アイコンタクトを理解したのか、エリザベスは悲しそうに俯いて――
「いきなり脱げだなんて……」
そんな視線送ってねぇよッ!! なんだその野茂のフォーク並の落ちっぷり!?
表現古いな俺!!
「まったく、佐倉先輩は仕方ないなー」
「ふふ、それが佐倉さんのいい所じゃない」
仕方なくねぇよ!! いくねぇよ!!
つかお前どんな設定でここに割り込んだんだよ!?
「私は貴方を追って海外からやって来た桜さん専用肉奴隷兼桜さん専用肉布団兼貴方の子を身篭って三ヶ月の妊婦で青姦を日に四回程強要される哀れな雌奴隷という設定でございますが?」
増えてる増えてる。なんか余計なモンが増えてる。
てぇか四回も外でしてたら肺炎起こすわ!!
「子供の事は心配してくださらないのですね……この子が、可哀想……」
俺が可哀想だよ。
そもいねぇだろ、子供。孕んでねぇだろ、お前。
「今はまだ……でございます」
無言で財布から取り出したゴムに画鋲を刺すエリザベスさん。
怖ッ!!
「ほらー、エリザベスさん、佐倉くん、無駄口やめてー」
いつの間にやら来ていた顧問の教諭に怒られた。
「やれやれですね」
お前も怒られたんだよ。
心の中だけで呟き――勿論、エリザベスにだけは伝わるんだけど――手にしたバイオリンを構える。
隣には、まったく同じ動作でバイオリンを構えたエリザベス。
さぁ、やってみよう。
■■■
月光館学園にし○かちゃんが降臨されました。
「……そんな笑わなくとも宜しいではありませんか」
無理、無理だよエリザベス。
腹が痛い。マジ転げそうだ。
「うわ……桜君が笑ってる……」
「携帯のカメラで撮るのはいけません、山岸様」
「え、なんでかな?」
「彼の著作権は私にございます」
「奪え……って事、かな?」
「さぁ……それも一興でございましょうか?」
端で今まさに起きようとしている本人無視の争奪戦にも気付かず、ただ笑って笑って笑い続けた。
「……意地悪ですね、貴方は」
エリザベス。
君のそんな顔は、楽しすぎるよ。
■■■
夕焼け。真っ赤な坂道、落書きだらけの飛び出し注意と書かれた看板。
毎日通う、学園からの帰り道。
いつもと違う、彼女と一緒の帰り道。
「とてもとても不機嫌です、私」
いつまでへそ曲げてるんだよ。
「あんなに笑わなくとも、よろしいではございませんか……」
すねた声、とがった唇、閉じた瞳、眉間のしわ。
「私にだって得手不得手がございます、なのに桜さんと来たら――」
通学カバンを手に、彼女はマイペースにご立腹。
怒った仕草、聞いた事も無い彼女の声。
「……なんですか、その顔は?」
? その、顔?
「とても嬉しそうな顔でございますよ、桜さん」
そうか?
自分の顔をぺたりと撫でてみても、分かる事は何も無い。
「そんなに私の無様がおもしろう御座いましたか?」
あぁ、楽しいな。
「……たの、しい? 面白い、ではなく?」
うん、楽しい。
「……分かりません」
だって、楽しいじゃないか。
出会った頃のエリザベスなら、今の顔なんて……想像出来なかった。
「そう、でしょうか?」
自分の頬に手を当てて、そっと撫でるエリザベス。
そんな仕草が似合う、だなんて事も、かな?
「……私は」
うん。
「私は、貴方の目から見て……どの様な存在だったのでしょう?」
最初に見たときは、印象なんて残らなかったかな。
「え?」
だって、横にでっかい鼻が。
「あぁ、鼻が」
うん。鼻が。
でも、二回目に逢った時は……そうだな、笑ってるけど、人形みたいだ、って思った。
「……」
どこか冷たくて、距離を感じたんだと思う。
同じ時間を共有してないとか、うん、そんな風に。
だから怖くて、人形みたいだって思った。
「そうかも……知れません……」
依頼をこなしてもさ、やっぱり距離はそのままで。
なんか、一時依頼とか受けるの、少し嫌だったかも、とか。
「そういえば、桜さんは一時依頼を受けられませんでしたね……」
うん、正直……その、ごめん。
怖くて、冷たくて……触れるのが、本当に……嫌だった。
「……」
ごめん。
でも、さ。なんだろう。ほら、あれ。
「?」
不気味な巨大人形とか、学校の変なCDとか……そんな変なのが依頼に在ってさ。
気分転換に受けて、依頼された物を見つけて……それを渡した時、エリザベスが……
「私が……?」
……あぁ、えっと。
なんだろう。
初めて、エリザベスの中に感情っていうのが見えた様な気がして……嬉しくて、距離が埋まったんだと、思う。
ベルベットルームの従者っていう君が消えて、エリザベスって言う個人の『存在』が初めて、あの時見えたと……そう、思ってる。
あぁ、彼女は人形じゃないって。
「……だから楽しい、と?」
人と触れ合う事は、楽しいし。
人と語り合う事は、嬉しいよ。
出会えば、必ず別れは在るけれど。
でも、別れの悲しさは一時だけで。出会ってから別れるまでの、それまでは。
嬉しいって、楽しいって気持ちで。
ずっと一生、残るよ。
「……貴方は、ずっとそれを心に書き記すのですね」
分からない。そんなの、分からない。
分からないけど、けれど。
誰かの笑顔が嬉しいって思える限りは。
うん……そうやって、全部覚えていたい。
少なくとも、今はまだ。
「欲張りなのですね……桜さんは」
今まで側に無かった物だから。
側ににじり寄ってきた以上は、逃がさない。
「そうですか……私のいろんな顔が、桜さんは楽しい……そう、ですか……」
ふと俯き考え込んで、また顔を上げて、彼女はこちらの目をそっと真正面から覗き込む。
「なるほど」
なるほど?
「今までの貴方も。これからの貴方も」
何か懐かしむように。自分の胸――心の上――に手を置いて。
「怒っていた貴方も、笑っていた貴方も……そして今の貴方も」
一つ一つ、何かを心から汲み上げるように。
言葉をそこで区切って。どこか嬉しそうに。
「楽しいですね」
そっと微笑む彼女。
プラチナの腕時計が、夕焼けを取り込んで。
優しい茜色に染まっていた。
「では、ここまでです」
ポロニアンモール。
ベルベットルームへの扉がある、忘れられた空間を前に彼女はそう呟いた。
「明日になれば、管弦楽部の私はいません。一時の夢と全て消えるでしょう」
そっか……
「今日の事も、貴方の心にずっと残るのでしょうか?」
……うん。
真っ直ぐ見つめて、頷く。
「……」
?
「いえ、その、まぁ、それは嬉しいのですが……」
嬉しいのですが?
「バイオリンの件は、忘れて頂いた方が嬉しい、かと……」
そっぽを向いて、真っ赤に染まった彼女のすねた顔を、ずっと忘れないように。
心に刻み込んだ。
■■■
退屈な授業を終えて、喧騒と活気を撒き散らす放課後がやって来る。
桜はそっとため息をつき、机から離れる。
と、友近が近寄って来て首に腕を回す。
「佐倉、今日はがくれ行くか?」
申し訳ないと思いながらも、彼は首を横に振った。
桜の目が、そんな気分じゃないと語っている事に気付いた友近は、やれやれと呟きながら手を離す。
「そっか……んじゃ、また今度な!」
元気良く扉から出て行く友近を見送り、彼も友近が出て行った扉から廊下に出る。
と。
「やぁ、佐倉君」
女子の制服を着た平賀が居た。
結構似合ってた。
うぎゃー!?
「良く分からないけど、今日起きたら何故か女装したくてさ!」
えー!?
「で、僕決めたんだ……留学も進学もしない。僕は――モロッコに行く!」
おわー!?
「じゃ、暫く君ともお別れだね……これ、僕からの餞別。大事にしてよね!」
手渡されたのは月光館学園男子生徒の制服。
「君に、昔の僕を預けるよ!」
いらねぇよ!
「じゃ、今度は違う出会いをしようね! 佐倉君!」
走っていく平賀をただ呆然と見送りながら、桜はぼそっと呟いた。
「こんな別れ……やだ」
■■おまけ■■
悪夢だった。あれは悪夢だった。
悔しい事に平賀の学生服はコミュアイテム扱いらしく廃棄不能。
許されるなら焼却炉に捨てたかったのに!!
つかまだ運命コミュレベル7とか8位だったのに強制的に10にされちまったよおい!!
えぐえぐ心の中で泣きながら、彼は月光館学園の渡り廊下を歩く。
とりあえず、体動かして全部忘れよう。
プール室の扉に手をかけて、扉を開ける。
「あら、ごきげんよう。桜さん」
プール室に、『2−Fえりざべしゅ』と書かれたスクール水着を着たエリザベスが立っていた。
「水泳部のホープで膝を故障しかけながらも可愛い甥っ子の手術の為に頑張るエリザベスでございます」
宮本ーーーーーーーーー!!
「彼なら今頃タルタロス135階辺りで番人でもやっておられるかと。」
テーブルかよッ!?
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
タルタロス135階の番人は眠るテーブルでございます。
そんなわけでエリザベスSS二本目っす。
なんででしょう。ギャグで乗り切ろうとしても絶対許してくれないこのエリザベス様。
畜生、いつかギャグだけのSSかいてやる。
さて、実はこのエリザベスSS。
書き上げるのは二度目になります。
一回目のSS製作時、途中トイレに行こうと立ち上がった瞬間。
僕足でコンセント引っ張ってしまいした。
はい、ブツン、でごぜーますだ庄屋さま。
しかも律儀に保存前。マジ自分の足怨んだよおれぁ。
まぁ、前回のエリザベスSSの際にも、途中でいきなりPC動作しなくなるという恐怖を味わいました。
エリザベス呪われてる、とか思いました。
思ったんですが。
今回に限ってはどうもそうでも無い感じで。
最初に書こうとしていたSSは、戦車コミュ、つまり水泳部にエリザベスが割り込んだって話だったんですけど、今思うとスク水以外出来る事ないんですよね。
あとはまぁ、無断改良したプラチナウォッチの原動力が核とかで、水泳中にそれが故障して桜大混乱とかその程度。
あとゆかりSS見事に没ったとかエロい人と夜な夜なエロス語ったりそんな最近。
あとみるくちゃん日記でやさぐれてた。そりゃジャンプ買いに行ったらドン引きだよ。空気嫁。コミックビームとかギャグ王なら皆笑顔で解決だったんだよ。
あと職場のオーナーにマジ切れそう。いい加減辞めたい此処。
うん、そんな感じで今後もエリザベスSSにペンを捧げたいと抱負を天高く吼えましたとさ。へー。