【ほろ酔いセレナーデ】
事の発端はパーティーをしようというものだった。
三年生が本日卒業したと言う事もあって、その日のうちに三人を纏めて祝おうと企画されたものだ。
ちなみに荒垣はご丁寧に美鶴が裏工作をしたおかげで卒業可能状態にしていた。
成績は勉強しなくてもある程度賄えたのか、今度から三人揃って大学生になるそうだ。
ところが現在ここは戦場と化している。
無理も無い、そもそも桐条財閥令嬢がいる以上、通常の一般ピープルが考えるパーティーの規模など忘却へ追いやろうという位の勢いだった。
しかし、やはり桐条の社交界には欠かせなかったある物が原因となって、通常では終わらないパーティーになってしまったのだった。
「なんだ…この空間は……?」
社交界に欠かせないもの、それはアルコール。
問題はこの寮のメンバーは全員未成年だった事。
その為シャンパンとかで済ませていたのだが、一部の人間がアルコール度数90%以上の物をどこからか仕入れていたから話は180度変わった。
「へへっ…こんな事もあろうかとちょっくら親父からパクって正解だったぜ」
アル中の親父から堂々と酒を奪う未成年の息子。いいのか日本。
「甘いですね順平さん。僕はこんな事もあろうかと伝で手に入れてますよ」
どんな伝だ小学生!!
「甘いぜテメェら、路地裏の覇者を甘く見るな」
「それなら私だってネットでこの日のために仕入れたお酒があるんだから」
「私もラボにありましたアルコールを少々…」
「プロテイン割りは大丈夫か?」
「ワン!(酒なら神主のお神酒があったぜ)」
…まぁ、言ってしまえばほぼ全員が準備をしていた訳である。してなかったのは彼とゆかり位なもの。
この場合は誰から注意すべきか。小学生か、飲料用アルコールじゃなくて工業用のものじゃないか、ネットで年齢査証の件か。
こういう場合の結論は全て彼曰く。
「…どうでもいい」
「よくないよくない、私達未成年だよ? 一応高校生らしいものって言うか、小学生もそうだけどさ」
「もうどうでもいいよ、この場の雰囲気に流されよう…」
もはや本当の意味で注意する気もしなくなった。
全員が全員思い思いアルコールを手にし、乾杯の音頭を順平に任せて待ち続ける。
「…やっぱお酒ってのはちょっと駄目な気がするんだよね」
「気にしたら負けだ、うん…」
二人もあくまでも酒を手にせず、他のメンバーと同じように待つ事にした。
ちゃんと酒だけではなく、料理も丁寧に準備されテーブルに並べられる。
当然だが半分以上が荒垣が作った料理だ。
「ではまぁ先輩達の卒業を祝ってカンパーイ!」
「カンパーイ」
一部の人間は釈然としない顔をしながら、とりあえず初の試みになる面子も多いアルコールを口にしたのだった……。
「なんだ…この空間は……?」
彼等はこの惨状を冷静に見渡す事が出来る。
「ねぇ、この状況どうしよう?」
「本当にどうしよう」
順平は顔を真っ赤にして風花にセクハラ発言を繰り返しては保護者(荒垣)に殴られ。
天田は精神的に黒くなり。
風花はさっきから放送禁止用語ばかり喋っている順平の言葉に(保護者によって)耳を塞がれて聞かないようにしたり。
明彦は酒のプロテイン割りならぬ、プロテインの酒割を挑戦したり。
美鶴は大股を広げ、姐さんの様にして一升瓶を直に飲み。
荒垣はいたって冷静に。
コロマルは挙動が不振となり。
アイギスはちょっとだけショートしている。
「ヤバいでしょこれ」
「ヤバいね」
「おいゆかり、酒が足りないぞ、早く酌をしろ」
美鶴のこんな一言にとうとう場が崩壊を始めた。
「おい桐条…テメェいい加減にしろよ……」
「荒垣さん、本当に助けてください」
このメンバーの中で唯一酒が強いのか、荒垣は見た目としては普通に話しかける事が出来る。
唯一つ、通常の彼ではあり得ない様な事をさっきからずっとしている事を除いて。
「って言うかさっきから荒垣さんに捕まっているよね風花って」
「こう、抱きかかえられているって感じだね」
「ちょっと羨ましいな…」
「何か言った?」
「別に〜」
ちょっとだけ唇を尖らせたゆかりがそこにいる。
「それとコロちゃんはどうしよっか?」
「本当にどうしよう、酒に酔った犬なんてお目にかかった事無いよ」
全くもって見当が付かない。だが、目の前の犬に関して言えば柱に頭をぶつける程度で済んでいる。
ちなみにさっきから放送禁止用語連発の、言ってしまえば四十代後半のセクハラ上司レベルに堕ちた順平は、荒垣に殴られた所を天田によって精神的に殴られている。
「はぁ、これだから順平さんはやっぱりテレッテですね」
「テレッテってなんだYO!?」
「あなたが言った台詞じゃないですか!」
「し〜らない知らない。ボクチンそんなおバカしゃんな事言った記憶無いんでちゅよ」
「うわ、マジキモッ!」
未だにアルコールを含んでいない二人の内の一人からこんな言葉が発せられる。彼の赤ちゃん言葉はある意味放送禁止レベルだった。
「ゆかりちゃん達は飲まないの?」
とうとう風花からこんな事を提案される。それが破滅への序曲とも知らず。
「あー、一応未成年だしここで素面が誰かいなくちゃ収拾付かないでしょ?」
「構わん。こうなれば無礼講だ無礼講」
明彦はやはり酒にプロテインをぶち込んでは片っ端から飲んでいる。さすがプロテインの神様。
「でも真田先輩…」
「なんだお前たち、私達の酒が飲めないのか?」
さあどっちが飲む?
ゆかり
彼